[NO.1579] 1000冊読む!読書術

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1000冊読む!読書術
轡田隆史
三笠書房
2009年12月10日 第1刷発行
245頁

単純に、なにか面白い本はないかな、といった面白い本を探すため限定の目的で読みました。すると、思いもよらない珍しいことや興味深いことが紹介されているので、それがまた楽しいのです。読書術はどもかくとして、そんな目的から手にしても、役に立ったうえ、じゅうぶん楽しく読むことができました。なにしろ1000冊ですからね。

本書のもともとの趣旨は自己啓発書なのでしょう。読書の名人たちの「読書歴」を盗(み)、新聞の「読書欄」「書評欄」の徹底活用を図り、ベストセラー作品、受賞作品をどう読むかを考え、多読術を会得する。なぜなら、本に勝る「話題の宝庫」はないのだから。そもそも、話題の宝庫は何のために必要とするのかというと、やっぱり仕事のためなのでしょうね。それって、面白いのかな。

前回、読んだ [NO.1578] 100歳まで読書 よりも10年前の出版。[NO.1578] 100歳まで読書 には、本書と重複した内容もあるとの記述がありましたが、さほど気にはなりませんでした。こちらは紹介される本について興味があるので、その点では重複は気にならなかったということです。

映画「男はつらいよ」で主役を演じた渥美清さんが書店の棚を前に、「身じろぎもせずに本の列を凝視している」姿を見かけたというエピソードは、両方の本に出てきました。鴎外の『渋江抽斎』を強く推しているところも重複しています。けれど、こんな些末な重複を挙げても仕方がないので、先へすすめます。

本書で章立てごとに紹介される本の数々ですが、ここではたんに本を抜粋することとします。

 ◆  ◆

P42
『読書術』(加藤周一/岩波現代文庫)
この本はもともと、1962年『頭の回転をよくする読書術』(光文社、カッパブックス)が最初でした。「高校生向けに書いたつもりがベストセラーになり、さらに1993年に、岩波書店の「同時代ライブラリー」に入り、2000年11月に、現在の岩波現代文庫となった。」

P48
『読むこと歴史 ヨーロッパ読書史』(大修館書店)アマゾンの古書で12500円の値がついています。ページ数も600頁以上。

P50
季刊誌『考える人』(新潮社)を紹介しています。時代の流れでしょうか。現在は紙の雑誌ではなく、WEBマガジンとして同名でUPされています。

「考える人」は新潮社のWebマガジンです。"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)を編集理念に、わかりたい読者に向けて、知の楽しみ... リンク、こちら 

季刊誌『考える人』と並んで紹介しているのが『大航海』(新書館)です。こちらは「2009年終刊してしまった」と伝えています。轡田隆史さんは、『大航海』の編集長だった三浦雅士さんに心酔しています。

P52
『地中海』(フェルナン・ブローデル/藤原書店)
『モンタイユー』(ル・ロワ・ラデュリ/刀水書房)
この2冊は、『考える人』2008年秋号の特集「物語を読むように歴史を読む」のなかで、湯川豊さんと丸谷才一さん対談しています。その対談で紹介された数多くの書名の中から、轡田さんが読んでいたのだそうです。

P54
 この『考える人』の記事がひとつの典型なのである。読書について、書物について、その道の達人たちが、わかりやすい言葉で、気楽な口調で、楽しく語る。しかし、内容は、まことに濃密であり、幅広く、奥深い。
 これを楽しみながら読んでいるうちに、いつの間にか、心は書物のなかに引き込まれているのである。「読んだ気分」になる。これが重要なのだ。
 もちろん、よし! 現物を読もう、と一念発起して、書店や図書館に走るもよしだが、じつは季刊誌『考える人』を楽しんだだけでも、立派な読書なのである。
(途中略)
 書物のいろいろな種類のなかに、読書についての論文、書物についての論文、読んだ本そのものの解説、書評、紹介といったジャンルがある。
 なかでも、「読書の達人」、つまり必然的に「文章の達人」である人が、自分が実際に読んでみて、面白かったり、感動した本について記した文章を読むのが、いちばんだと、ぼくは信じている。
「1000冊読破」の、それは「近道」であり、しかも「王道」なのである。

最後にいう「1000冊読破」はともかく、それよりも、むしろここでいっている「本」にまつわる「本」のことがなによりありがたいです。個々の部分、こちらの考えを代弁してもらった気分です。

読書では、どのジャンルが好きか? というと、じつはこの「本」の「本」じゃないか、と考えていました。最近は開き直っています。それで、なにか支障ありますか? って具合に。

書評を読むことの楽しさは、別のところにも書いていました。

P70
 書評家の筆者がまず大いに楽しみ、その楽しさを読者に伝えようと努める。そこに素晴らしい読書の世界が広がってゆく。これぞ書評の醍醐味なのである。
 書評を読むだけで楽しむもよし、ときには書店や図書館に走るもよしではないか。

P56
『猿飛佐助からハイデガーへ <グーテンベルクの森>』(木田元/岩波書店)
帯に「こんな本を読んで哲学者になった! 70年に及ぶ読書体験の中から面白かった本、心に残った本を厳選紹介」

P58
日曜日の新聞の「読書」欄で盗み読み
P60
 ぼくは講演などのたびに、家で毎日新聞を購読していない人は、日曜日の朝、散歩がてらに駅売りを買いにゆくといい、うんと得しますよ、と勧めている。
 毎日新聞が書評を大切にしていることは、「毎日書評賞」を創設して、2009年1月で第7回(受賞は、『歴史としての現代日本――五百旗頭(いおきべ)真(まこと)書評集成』千倉書房、の筆者、五百旗頭真さん)になっているところからもうかがえるではないか。

P61
『ロンドンで本を読む』(丸谷才一/知恵の森文庫・光文社)
現代イギリスの書評の名作選、まさに、「書評の芸の見本帖」で、その「芸」の楽しさは、実物を読むよりも大きいくらい。

P83
『神経文字学』/読み書きの神経科学(岩田誠・河村満編集、医学書院、2007)
 冒頭の東京女子医科大学医学部長、岩田誠さんと昭和大学神経内科教授、河村満さんの対談「神経文字学への想い」

P94
『プルーストとイカ』/読書は脳をどのように変えるのか?(メアリアン・ウルフ著、小松淳子訳、インターシフト)

この本について、著者轡田さんは書いています。

P95
 それにしても「プルーストとイカ」とは面白い。「第一章 プルーストとイカに学ぶ」にはプルーストの言葉が巻頭句として揚げてある。

読書の神髄は、孤独のただなかにあってもコミュニケーションを実らせることのできる奇跡にあると思う。

 プルーストは、「読書を、人間が本来ならば遭遇することも理解することもなく終わってしまう幾千もの現実に触れることのできる、一種の知的"聖域"と考えていた」(同書から)

P101
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』(ジュリアン・ジェインズ著、柴田裕之訳、紀伊國屋書店)

雑誌『大航海』2009年1月号特集、「脳・意識・文明」の三浦雅士さんと岸田秀さんの対談の一節に「右脳が、かつては神の声を語っていた」という言葉があった。

P102
「大著『神々の沈黙』が明かした"古代人の脳"」という章の内容は、本書『1000冊読む!読書術』のなかでも、もっともスリリングなところでした。

白川静の漢字学について

P111
『白川静 漢字の世界観』(正岡正剛著、平凡社新書)

P135
 ⑧詩を読もう
 目の見えない仲間には読んであげよう。詩は、平凡な言葉が組み合わせ次第で美しく輝く劇場だ。人間はパンのみではなく、言葉で生きている。言葉を磨け。

轡田さんが朝日新聞の論説委員をしていたころ、「成人の日・社説」を書いたときの内容からの引用なのですが、ここで詩を取り上げているところが目をひきました。

すぐあとのページに若山牧水の短歌をあげています。P151には金子光晴の『人間の悲劇』から一篇を紹介しています。また児玉花外の詩を何篇か。明治大学校歌は置いておいて、「馬上哀吟」などという詩は、こんな機会でもなければ読まなかったでしょう。

P169
『獄中記』(佐藤優著、岩波現代文庫)

P170
 佐藤さんの場合とはてんで異なる低次元の話だけれど、同じように裁判の渦中にある若い経済人も、「獄中記」ふうのものを書いている。「読む人」と「読まない人」の差の、あまりの大きさにビックリする。
「本を読まない」とこうなる、志の方向が金儲けで、「知の」志が乏しいと、こういう人物になっちまうかもしれないぞ、といささか不安にさせてくれるという意味では、教訓的な貴重な本かもしれない!

P172
『中島敦「李陵」の創造 創作関係資料の研究』(村田秀明著、明治書院)

「書く」前に「読む」と、確実に刺激を受ける作家として、中島敦をあげています。

P232
『世界は一冊の本』(長田弘著、晶文社)

さいごの「おわりに」のおわりで紹介しているのはボルヘスの『伝記集』岩波文庫でした。


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