[NO.1466] 最後の読書

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最後の読書
津野海太郎
新潮社
2018年11月30日 発行
262頁
再読

[NO.1361] 百歳までの読書術』に続く、津野海太郎さんの老後と読書にまつわる著書。新潮社 WEBサイト Webでも考える人 の中に連載している文章をまとめたもの。リンクこちら

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このところ、蔵書を断捨離するにはどうしたらいいのか悩んでいながら読んでいたのが、津野海太郎さんの一連の読書と老後についての内容だった。そこで偶然目にした新潮社のサイトに連載している本書の内容をひととおり読んでいた。特に衝撃的だったのが、紀田順一郎氏の蔵書整理の顛末。鶴見俊介氏の末期というのも、結構しんどかった。WEBサイトの連載は、本書へまとめた後も継続している。

18 樹木希林と私たち 以降は、本書に載っていない。

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『百歳までの読書術』までもそうだったのだが、年齢を経て読む読者にとって、中身は身につまされる内容だ。とても津野さんほどには、身を入れて読書生活に没頭してきたとはいえないけれど、少なからず考えさせられることが多い。

内容は置いておいて、外側から本書について書くと、まず、本の体裁が実にこちらにとってありがたい造りになっている。いわゆる単行本ではあっても、表紙の材質が固くないので、(小林信彦のいうところの)寝転んで手にするのにちょうどよい。小林信彦の新刊『生還』(文藝春秋刊、2019年03月15日 第1刷発行)は表紙がハードカバー過ぎて、手になじまないのだ。表紙は平野甲賀さん。思わず、晶文社じゃないよね、と確かめたくなる。

次に、文体のこと。このところの津野さんのこうしたエッセイ風の文章は、いつからこんな文体になったのか、ときどき考えてみるのだけれど、思い出せない。(調べればいいのだろうが、そうしてもいない。)お年を召した先輩から、お話を伺っているような気分になる。そのくせ、読者との境界は、きっちり踏まえている。

本書の中に、古典が読めなくなっているけれど、新しい古典に対するアプローチもあっていいだろうという章があった。同じように、これは津野海太郎さんが開発した文体のように思いつつ、このところ愛読している。

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【おやっと思ったところ】

「お祭り」と称した、津野さんが個人的にわくわくするテーマを見つけ、自分でのめり込む様子について書いている。なんだか、こちらの見にも似たようなことがあったことを思い出す。

『百歳までの読書術』からの抜粋として、挙げているのを引用(いわゆる孫引きになってしまうが)

P196
なにも知識の獲得を目的にしているのではないからね。それに目的にしようとすまいと、いまの私の頭では、こまかいことは一か月もすれば忘れてしまう。〆切も試験もない。あくまでも私ひとりの知的なお祭りなので、何ヶ月かすれば自然に騒ぎがおさまる。

著者は、こうした「お祭り」を年に何度かやってきた、という。こちらは数年に一度あればいい方だった。

老人と読書というテーマで、もう一つ。あとがきから。

本書の冒頭で触れている、鶴見俊介氏が死の間際になって脳梗塞を患い、言語機能を失ったことにより、読めても発語できず、書くことも不可能となってしまった。それにもかかわらず、亡くなるまでの3年半もの間、読書を続けていたという事実。そのことにつよいショックを受けたという。

で、あとがきにあった内容。

P260
この年齢になってわかったが、年老いた人間の読書には、少年少女や青年や壮年のそれとはかなりことなる性質があるみたい。
年齢はどうあれ、ひとは、それまにかれが生きた過去の体験の集積(経験)をまるごとひっかかえて本を読むし、読むしかない。
そして老人と老人以前とでは、たんなる事実として、その集積の(質とまではいわずとも)量がちがう。しかも心身のおとろえに並行して、未来を想像する力も遠慮なく失われてゆくので、古い本だけでなく、新しい本までも、思わず知らず、過去に積みかさなったおびただしい体験のあいだを往ったり来たり点検しながら読んでしまう。未来より過去にかたむく。そういう読み方がしだいにしっくり感じられるようになった。

果たしてこの先、どういった文章を書いていただけるのか。

以前、大岡昇平氏『成城だより』をリアルタイムで愛読していたことがある。新しいネタを仕入れては、その都度、埴谷雄高に電話をする。また、自分でも熱中し、数学の個人教授を受けもしたり。気になった音楽のフレーズがあれば、鍵盤で確認することも。その興味関心の幅広さが特徴だった。

近年、身辺雑記をつづった日記ともつかないような文章を読むことが少なくなった。私小説が滅んだころからだろうか。

ジーパンをはく年配者が、この先、いったいどのような古典体験を綴ってくれるのかも興味深い。

【関連書リンク】
蔵書始末記 01 
[NO.1327] 百歳までの読書術 
[NO.1328] 蔵書の苦しみ 
[NO.1434] 蔵書一代 
[NO.1466] 最後の読書 
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