| AI vs. 教科書が読めない子どもたち 新井紀子 東洋経済新報社 2018年02月15日 第1刷発行 2018年04月27日 第8刷発行 287頁 再読 |
こんな内容だったとは、まったく思いもしなかっただけに、もっと早い時期に読めばよかったと後悔しています。知っていた人にとっては、なにを今ごろ、といったところでしょうが。
そもそも、前半(AIについて)と後半(教科書が読めない子どもたち)は別の内容に思えたものでした。AIの研究の過程で体験した課題(教科書が読めない子どもたち)をなんとかしなくてはならないという切実な思い。それが本書を執筆する動機でししょう。著者の誠実な人柄に感銘を受けました。
不思議な人です。巻末著者紹介によれば、一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院数学科単位取得退学(ABD)。東京工業大学より博士(理学)を取得。専門は数理論理学。
一橋大学法学部在学中に数学の魅力に惹きつけられて、イリノイ大学数学科を卒業後に一橋大学法学部を卒業したのだとか。なんとも珍しい進路。
読みやすさが、最初の感想でした。たとえば「新書」のような文章です。いや、明晰なところは、それ以上です。冒頭から、こちらの興味を強くつかんではなしません。ページを繰る手がすいすい進みます。あまりにわかりやすくて、気がつくと頭に残らないくらい。笑っちゃいました。なんだか矛盾するようですが、そんな思いにかられました。まるで物語です。
◆ ◆
再読すると、「数学の歴史」(P.109)なんてところが、思いのほか新鮮でした。とにかくわかりやすくて、こちらが利口になった気分になってしまうほど。
前半部のAIに関連する説明は、AIに関するものとして、とてもまとまっているものでした。強化学習とか、すっかり忘れていたのを思い出させてくれます。かつて、AIについて、リアルタイムで読んでいたころを思い出しました。当時、こんなにもすっきり説明してくれるものは見つけられませんでした。
「教科書が読めない子どもたち」では、「本人は薄々気づいているはずです。」(P.230)のろころが、ドキッとしました。
P.230
小学生のうちからデジタルドリルに励んで、「勉強した気分」になり、テストでいい点数を取ってしまうと、それが成功体験となってしまって、読解力が不足していることに気づきにくくなります。中学校に入っても、デジタルドリルを繰り返せば、1次方程式のテストで満点が取れて、英単語や漢字は身につきますから、そこそこの成績は取れるはずです。ところが、受験勉強に向かい始める中学3年生になると、なぜか成績が下がってしまう。
本人は薄々気づいているはずです。「なんだか学校の先生が言っていることがわからない」、教科書は読んでもわからない」......。けれども、どうしてよいかわかりません。だから余計にデジタルドリルに没頭して仕舞います。
全部が全部、デジタルドリルではなくても、そうした傾向の問題点が、著者新井さんのつくった東ロボくんの東大入試に合格できなかった原因であるとのこと。しかし、MARC程度なら、合格点に達してしまったところが、なんともはや。
その後、AIが東大理3の2025年入試問題で、合格点をとったのがニュースになりました。ぜひ、新井さんの解説を読んでみたいものです。
◆ ◆
「はじめに──私の未来予想図」全文がネット上で読めます。
アマゾン(Amazon)の本書のページで、Kindle版のサイトにはサンプルとして公開されていました。冒頭のつかみとして秀逸です。リンク、こちら
◆ ◆
目次
はじめに
第1章 MARCHに合格――AIはライバル
AIとシンギュラリティ
AIはまだ存在しない/シンギュラリティとは
偏差値57.1
東大合格ではありません──「東ロボくん」プロジェクトの思い/東ロボくんがMARCHに合格したらどうなるか
AI進化の歴史
伝説のワークショップ/エキスパートシステム/機械学習/ディープランニング/強化学習
YOLOの衝撃──画像認識の最先端
東ロボくんのTEDデビュー/リアルタイム物体検出システム/物体検出システムの仕組み/AIが目を持った?
ワトソンの活躍
クイズ王を打倒/コールセンターに導入
東ロボくんの戦略
延べ100人の研究者が結集/世界史攻略/論理で数学を攻略
AIが仕事を奪う
消える放射線画像診断医/新技術が人々の仕事を奪ってきた歴史/もう「倍返し」はできない/全雇用者の半数が仕事を失う
第2章 桜散る――シンギュラリティはSF
読解力と常識の壁――詰め込み教育の失敗
東大不合格/東ロボくんにスパコンは要らない/ビッグデータ幻想/日米の認識の差/英語攻略は茨の道/200点満点で120点を目標に英語チーム結成/常識の壁/150億文を暗記させる
意味を理解しないAI
コンピューターは計算機/数学の歴史/論理と確立・統計
Siri(シリ)は賢者か?
近くにあるまずいイタリア料理店/論理では攻略できない自然言語処理/統計と確立なら案外当たる
奇妙なピアノ曲
確率過程/自動作曲/とりあえず、無視する/「意味」は観測不能/やっぱり、私は福島にならない。
機械翻訳
やふーほんやく⇒×/私は先週、山口と広島に行った/オリンピックまでに多言語音声翻訳は完成するか/画像認識の陥穽
シンギュラリティは到来しない
AIはロマンではない/科学の限界に謙虚であること/倫理、確率、統計に還元できない意味
第3章 教科書が読めない――全国読解力調査
人間は「AIにできない仕事」ができるか?
問われるコミュニケ0ション能力/日本人だけじゃない
数学ができないのか、問題文を理解していないのか?--大学生数学基本調査
会話が成り立たない
全国2万5000人の基礎的読解力を調査
本気で調べる/東ロボくんの勉強をもとに、リーディングスキルテストを開発/例題紹介
3人に1人が、簡単な文章が読めない
アレキサンドラの愛称は?/同義文判定ができない/AIと同じ間違いをする人間/ランダム率
偏差値と読解力
基礎的読解力は人生を左右する/何が読解力を決定するのか/教科書を読めるようにする教育を/AIに代替される能力/求められるのは意味を理解する人材/アクティブ・ラーニングは絵に描いた餅/「悪は熱いうちに打て」/現場の先生たちの危機感/処方箋は簡単ではない/AIに国語の記述式問題の自動採点はできない/いくつになっても、読解力は養える
第4章 最悪のシナリオ
AIに分断されるホワイトカラー
どうして三角関数を勉強しなきゃいけないの?/AIで代替できる人材を養成してきた教育/AI導入過程で分断されるホワイトカラー
企業が消えていく
ショールーミング現象/AI導入で淘汰される企業
そして、AI世界恐慌がやってくる
AIにできない仕事ができる人間がいない/私の未来予想図/一筋の光明
おわりに