[NO.1194] 君は隅田川に消えたのか

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君は隅田川に消えたのか/藤牧義夫と版画の虚実
駒村吉重
講談社
2011年5月12日 第1刷発行

巻末に参考文献くらいは欲しかった。せめて、藤牧の作品名一覧も。

『藤牧義夫 真偽』著者大谷芳久氏に尋ねながら展開する構成をとっている。それはそれでいいのだが、本書の記述中、『藤牧義夫 真偽』からの引用(あるいは大谷氏の意見)と駒村氏の考えの相違が、ところどころで混在してしまっていないだろうか。読み取りが甘いといわれれば、それまでだが。

話題になっている作品捏造の件はスリリングなのだが、概要はほぼ知っていたので、ことさら新鮮さは感じられなかった。しかし、本書の眼目は例の絵巻を分析したところにある。作品自体は相生橋で終わっているのだが、実際に書いたのはそこがスタートであったのだろうという推理。また、長大な作品での視点の推移を実際にたどって分析しているところ。

先日読んだNO.1186 『芸術新潮 2011年1月号』掲載の無署名記事「藤牧義夫と捏造者Xの"献身"」を書いたのは駒村氏ではないかという気がしてきた。

あれまと思った2点について。

その1
p67
ボン書店について言及していた。もちろん『ボン書店の幻』(内堀弘著、ちくま文庫刊)も紹介されている。

その2
p190
野口冨士男がまんまと小野忠重にだまされていること。藤牧氏は貧困と病気に苦しんでいたという、小野氏が広めた虚偽の内容を野口氏が信じてしまったのだそうだ。したがって、野口氏著『相生橋煙雨』に描かれている藤牧像は実際とは違うのだという。怖いことだ。

※   ※

それにしても、小野忠重という不思議な人物についてこそが本書の眼目だろう。自宅跡に版画館を開いているのだという。本書について、ご子息の感想を伺ってみたい。

※   ※

主旨からは離れたエピソードで面白かったのは、大谷氏がはじめて画廊と出合ったきっかけが紹介されていたこと。大学生のときに担任から紹介されたアルバイト先が画廊だったという。それ以来、卒業後の就職先も画廊になった。ちなみに、担任は詩人の宗左近氏。

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