[NO.1464] 『サピエンス全史』をどう読むか

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『サピエンス全史』をどう読むか
ユヴァル・ノア・ハラリ他 著
河出書房新社
2017年11月20日 初版印刷
2017年11月30日 初版発行
142頁

大部だった『サピエンス全史』をコンパクトに解説している。ほとんどが質問に対する回答形式か談話をまとめたもので、さらっと読めてしまう。ここで新たに新機軸を提起してあるという内容ではない。『サピエンス全史』を読み終わってから本書にあたったのだが、今さらながら、ああ、そうだったなあという内容だった。こちらの頭の中を整理してもらったような。

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最初が『サピエンス全史』訳者柴田裕之のエッセイ。次、ハラリさんと池上彰の対談は「クローズアップ現代+」に収録できなかった分も入っている。吉川浩満による文章は質問に対する回答という形式。続く大澤真幸は吉川浩満が聞き手に回ったインタビュー。福岡伸一は談話をまとめたもの。次の海部陽介も質問に対する回答という形式。最後にまとめて3人の論考、長沼毅・渡辺政隆・池田純一はどれも上下2段組なので、それまでの会話風よりも論考らしい。巻末に 『サピエンス全史』を楽しむためのブックガイドとして22冊を挙げている。

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【読後に残ったところ】

1)池上彰の対談
p32 今後1、2世紀の間に、人類はバイオテクノロジーとAIによって、これまでとはまったく異なる新人類に生まれ変わるのだという。人類とネアンデルタール人やチンパンジーが異なる以上の変化を迎えようとしている。

p35 ところが変化があまりにも急激であるため、政治が追いついていない。このままでは 市場の力 が私たちに代わって選択をしていくことになってしまう。危険な状況にある。

p37 未来へのビジョンをもって、ぜひ政治と科学がもっと緊密に協力しあう必要がある。

2)吉川浩満
こちらが思っていたことを、まず最初に提示され、可笑しくなってしまった。高校生はもとより、ちょっとませた中学生でも読めてしまいそうというところ。また、すべてはフィクションであるという考えは、吉本隆明の共同幻想論と岸田秀の唯言論と一緒である。これも同じ感想だった。吉本と岸田にプラス廣松渉の世界の共同主観的存在構造を思いついたくらいの違いがあるといえるかどうかしか考えつかなかった。

p49 「歴史の選択は人間の利益のためになされるわけではない」「歴史が歩を進めるにつれて、人類の境遇が必然的に改善されるという証拠はまったくない」というクールな視点が『サピエンス全史』におけるハラリさんの特徴であるという。まるで、人生は死ぬまでの暇つぶしであるといった深沢七郎や山本夏彦みたい。

3)大澤真幸
p66 (『サピエンス全史』を読むと)自分が本当に知りたいことってこういうことだったとわかったような気分にさせてくれます。 この わかったような気分にさせてくれ るというところがミソかな。ほかのところでの大澤さんの専門分野からの指摘は、ハラリさんが上手にさらりととばしたところを突っついているし。前述の抜粋に続けて、

人間や世界は全体としてこういうものだったということを書いてくれる本が必要なのです。昔まだマルクス主義が元気だった頃には、マルクス主義の良さはそこにありました。問題はあったにせよ、ともかくマルクス主義は、お前は一体世界の全歴史のなかで何者なのかというような位置を与えてくれたんです。

うまいことを言うぞ。大澤さんも。やっぱり中高生が読むと、わくわくするだろう。老人もあの頃の自分を思い出しながら、そういった気分を味わえると言ったほうがいいかな。

4)長沼毅
p99 「パスカルの賭け」という言葉。知らなんだ。佐藤優が紹介していそう。

具体例が上手い。p100 仏教思想についての中、映画『今を生きる』は見たことがなく、ぜひ見たくなった。アーサー・C・クラーク がスリランカに移住した理由は、仏教に魅せられて仏教国であるスリランカを選んだというところ、すっかり忘れてしまっていた。宇宙エレベーターを持ち出したり。もし、宇宙人が来たら、クラーク氏にこそ地球人の代表になってほしいと思ったものだ。なんて、他の人の口からは出てこない。

5)巻末ブックガイド
タイトルが今風だ。『サピエンス全史』を楽しむための なのだから。要は楽しむのだ。

22冊中、一番は『銃・病原菌・鉄』だろう。これは何度か挑戦しては、その都度、挫折している。『ビッグヒストリー入門』(D/クリスチャン/渡辺政隆 訳/WAVE出版)は、本書で何度か紹介されていた大部なもののエッセンスだという。新しい本ばかりの中、目に付いたのが『歴史の研究』(A・トインビー 長谷川松治 訳/中央公論社)何しろ1967年、シリーズ「世界の名著」61なのだ。全10巻の大著のダイジェスト版だから、ここに挙げたという。エッセンスだとかダイジェストだとかも、何しろこのブックガイドの題名は、『サピエンス全史』を楽しむための なのだから、これでいいのですね。

【関連リンク】
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