[NO.1384] サピエンス全史(上)/文明の構造と人類の幸福

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サピエンス全史(上)/文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ
柴田裕之
河出書房新社
2016年9月30日 初版発行
2017年1月28日 9刷発行

国家、貨幣、企業......虚構が他人との協力を可能にし、文明をもたらした! ではその文明は人類を幸福にしたのだろうか? 現代世界を鋭くえぐる、50カ国以上で刊行の世界的ベストセラー! 出版社サイトの紹介から リンク、こちら 

しばらく前に話題になったのを今頃になってやっと読む。なるほど、と思ったのは文章がうまいこと。切り取り方、構成、比喩の選び方など。

変なたとえだが、立花隆の田中角栄研究に対して、マスコミ関係者は何を今さら、そんな当たり前のことを記事にして。そんなこと、我々はみんな知っているよ、と思ったという。本書に書かれているそれぞれは、新しいことではない。どれだけ読者にわかりやすく再構成して読ませるか、がうまい。「わかりやすく」よりも「おもしろく」かもしれない。「つかみ」がうまい。プレゼンテーションの技、または講義の技術だろうか。

文章で感じたことは、なるほど英文なのだろうなということ。英文ならではの説明の仕方とでもいったらよいだろうか。それが世界標準として英文の特徴なのだろう。

日本語ではやや間延びするくらいの言いまわし。おそらく明治時代に和訳した人たち(漢文の素養のあった)が本書を訳したなら、もっと簡易にしたのではないだろうか。

■書き出し

p14
第1章 唯一生き延びた人類種

今からおよそ一三五億年前、いわゆる「ビッグバン」によって、物質、エネルギー、時間、空間が誕生した。私たちの宇宙の根本を成すこれらの要素の物語を「物理学」という。
物質とエネルギーは、この世に現れてから三〇万年ほど後に融合し始め、原子と呼ばれる複雑な構造体を成し、やがてその原子が結合して分子ができた。原子と分子とそれらの相互作用の物語を「化学」という。
およそ三八億年前、地球と呼ばれる惑星の上で特定の分子が結合し、格別大きく入り組んだ構造体、すなわち有機体(生物)を形作った。有機体の物語を「生物学」という。
そしておよそ七万年前、ホモ・サピエンスという種に属する生き物が、なおさら精巧な構造体、すなわち文化を形成し始めた。そうした人間文化のその後の発展を「歴史」という。
歴史の道筋は、三つの重要な革命が決めた。約七万年前に歴史を始動させた認知革命、約一万二〇〇〇年前に歴史の流れを加速させた農業革命、そしてわずか五〇〇年前に始まった科学革命だ。三つ目の科学革命は、歴史に終止符を打ち、何かまったく異なる展開を引き起こす可能性が十分ある。本書ではこれら三つの革命が、人類をはじめ、この地上の生きとし生けるものにどのような影響を与えてきたのかという物語を綴っていく。

■教育について

p22
女性はさらに代償が大きかった。直立歩行をするには腰回りを細める必要があったので、産道が狭まった──よりによって、赤ん坊の脳と頭がしだいに大きくなっているときに。女性は出産にあたって命の危険にさらされる羽目になった。赤ん坊の脳と頭がまだ比較的小さく柔軟な、早い段階で出産した女性のほうが、無事に生きながらえてさらに子供を産む率が高かった。その結果、自然選択によって早期の出産が優遇された。そして実際、他の動物と比べて人間は、生命の維持に必要なシステムの多くが未発達な、未熟な段階で生まれる。子馬は誕生後間もなく駆け回れる。子猫は生後数週間で母親のもとを離れ、単独で食べ物を探し回る。それに引き換え、ヒトの赤ん坊は自分では何もできず、何年にもわたって年長者に頼り、食物や保護、教育を与えてもらう必要がある。
この事実は、人類の傑出した社会的能力と独特な社会問題の両方をもたらす大きな要因となった。

もっとも目を引いたのは共同主観による思い込みについて。これって廣松渉『世界の共同主観的存在構造』、吉本隆明『共同幻想論』、岸田秀『ものぐさ精神分析』での「唯幻論」も含め、かつて人口に膾炙したような。

表紙のデザインといい、中身といい、著者の来日した様子といい、すべてが人目を惹く。ジャーナリスティック。

【関連リンク】
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