[NO.1506] 図書室のバシラドール

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図書室のバシラドール
竹内真
双葉社
2020年03月22日 第1刷発行
333頁

初出、双葉文芸Webマガジン「カラフル」2019年3月10日~10月10日

久しぶりに通読した小説だった。面白い。小説を読む王道、ストーリーの展開に引き込まれた。高校の図書室が舞台とあって、どんなものかと危ぶみながらだったけれど、登場人物にも共感できていた。いろいろな分野の書名が次から次へと紹介されるのも楽しみだった。巻末に丁寧な【本書に登場した本】一覧が載っている。

シリーズもの、第3作目だということだが、初めて読んでも十分、ついていけた。ところどころで、これまでの設定を読者に補う叙述も挟まれている。まるでテレビドラマみたいに、そのあたりは親切。もっとも、いくつか、このことは何をいっているのだろう? 前作までを読めばわかるのだろうか、と推測されるところもあったが。なんだか、こちらの読解力を試されているような気もした。【詳しくは後述】

へーえ、と思ったのが、読点「、」の少なさ。まるまる一文に読点がないこともあった。それでいて、(それだからこそ)文章が読みやすい。このあたりが、作者の手腕なのだろう。

出版社サイトで、冒頭部分が読める。リンク、こちら

同サイトには、プロの書評家である大矢博子の紹介も載っている。「ブックレビュー:小説推理2020年5月号掲載」リンク、こちら。l

 ◆ ◆

主人公が三十代というのも、設定としては練られている。なにしろ、高校生が何人も出てきて、動き回るのだから。その主人公のやや大人の視点から語られる。このやや大人であるというところが、読者が好感をもって引きつけられるところだろう。なにしろ司書の資格がなく、取得に向けて勉強中という身分の主人公なのだ。高校生が成長していくのは当然として、この主人公もまた仕事をとおして成長をとげている。

対比するように描かれる、第三話での男性教諭たちの設定には笑ってしまった。「面倒くさがりの男たちを働かせちゃいましょう」という女性たちのパワフルな企画力に目を見張る。「面倒くさがりの男たち」も、このあとで実施されたランチタイム講演会ではちゃあんと立派にやっていましたが。そうそう、校長先生の置き土産のところ、格好良かったな。

本好きにとって、図書館は勝手知ったる場所だし、学校の図書室というのも馴染みのある場所だし。逆にいうと、本に馴染みのないと、とっつきにくいだろう。

日常生活の中に生まれる、ちょっとした謎解きを中心にストーリーは展開する。これもミステリーのジャンルに入るのかな。

登場人物に悪意がないのも特徴だろう。

 ◆ ◆

目次
第一話 夏休みのバシラドール
第二話 文化祭のビブリオバトル
第三話 来年度のマジックシード

書名にある「バシラドール」は第一話に出てくる。それがちゃんと第三話でもまた出てきたときには、やられたと思った。うまい筋立てになっていた。

面白かったのは、巻末の【本書に登場した本】一覧に目をとおしていたときだった。耳慣れない「バシラドール」なる単語の出典があった。

『チャーリーとの旅』ジョン・スタインベック/著 竹内真/訳 ポプラ社

「バシラドール」なんていう言葉を知っているとは、なんと博学な作者なんだろうと思っていただけに、可笑しくなってしまった。

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前述の「前作までを読めばわかるのだろうか、と推測されるところ」について

P108
人には内緒の――ちょっとした特技を使えば、返却された本に手を触れ、そこから何かしら残留思念を読み取れるかもしれなかった。

P128
だけど、そう思った途端、本に染み込んだ思いが伝わってきた。

P129
今度は詩織も仕事に集中していて残留思念どころではなかったが、(略)

3箇所とも、主人公の内面描写から。これって、ESPとかいうエスパーってこと? 持ち物に触ると「残留思念」を読み取って、そこから犯人の手掛かりをつかむとか、ドラマにあるけど。もしかして、このシリーズはSFの要素もあったりして。最近の小説では、SFのハードルなんぞ、わけなく跳び越えてしまうようだし。

それとも、こちらの思い過ごしなのかな。シリーズの前作を読めばいいだけの話だ。

うっかり忘れるところだった。山村さんにも似たようなところがあるような。

P198
彼の言う「ちょっとした特技」というのは、一種の予知能力のことだった。

このところなど、さすがに本物のSF小説ではないと読めないこともないのだけれど。冗談めかして二人でプチ秘密の共有みたいな。でも、わからないな。

 ◆ ◆

ほかにもあるけれど、共感したところをひとつ選ぶなら

P69
(略)アメリカ一周やらに比べればささやかだけれど、成り行き任せの調べ物で様々な本を渡り歩くというのも冒険の旅みたいなものだ。ここまできたからにはもっと先に進んでみたい。

「成り行き任せの調べ物で様々な本を渡り歩くという(冒険の旅)」に、わくわくするところ。

1冊の本から始まって、次から次へと芋づる式につながることって、ときどきある。たとえば、中公文庫版『共産主義的人間』(林達夫/著)の庄司薫による解説「解説――特に若い読者のために」のなかにある「まさに知性の大盤振舞いとでもいうべき「あれやこれやの、てんやわんや」」というところなど、その好例だろう。

この解説は現在の「中公クラシックス」版ででは削除されてしまっていて、残念ながら読めない。その後に流行った昭和軽薄体とは違う饒舌体で、いいのに。


シリーズのリンク一覧
1.[NO.1525]『図書室のキリギリス』
2.[NO.1530]『図書室のピーナッツ』
3.[NO.1506]『図書室のバシラドール』