800日間銀座一周/文春文庫 森岡督行 文藝春秋 2022年04月10日 第1刷 205頁 |
【初出】
P.206
資生堂 ウェブ「花椿」連載「現代銀座考」
2020年5月12日~2021年12月23日
本書は文庫オリジナルです
P.203
40/800日間銀座一周
「花椿」で、銀座について40回書いてきました。思えば、銀座について書くようになったのは、2019年11月から。編集部より「銀座と資生堂」というテーマで執筆依頼があったことがきっかけでした。その後すぐに連載が始まり、最初の執筆以来、およそ2年2ヶ月。日数にすると約800日。この間、銀座は、これまでも明治5年(1872年)の大火や関東大震災、敗戦など危機がありましたが、コロナ禍も、大きな影響を及ぼしました。
表紙にこう書かれています。
文・え 森岡督行
写真 伊藤昊
P.6
写真 伊藤昊
イラスト 森岡督行
デザイン 木村弥世
「花椿」に40回掲載された記事には、それぞれ毎回最初に伊藤昊さんの写真が一枚添えられています。(もちろん白黒です。)大半が1964年、オリンピックにわく銀座が紹介されます。当時の街並みにこれまで興味があったのに、今回はそこに映り込んだ人物の方に強く引きつけられてしまいました。
なにしろ1960年代の銀座です。だれもがとびっきりのおしゃれをしているのが前提。当然お上りさんだって、そこには写っています。新婚旅行中の二人がたまりませんでした。
場所は銀座三越のエントランス。1964年秋。男性は白手袋をしています。当時、新婚旅行では白手袋をする風習があったのだとか。女性が着ている毛皮コートは、この季節としては厚着です。もしかしたら北海道など、すでに寒い地域から、新婚旅行とオリンピック観戦を兼ねて来たのかもしれません、と森岡さんは記しています。この先が妄想劇場っぽくて好きです。
P.79
男性の持つ四角いカバンと、女性が持つ網の手提げには、同じタグが付いています。飛行機で羽田空港に降り立ち、モノレールに乗って浜松町駅を経て、いま銀座に到着したというルートが想像できます。女性の視線の先にあるのは三愛ドリームセンターでしょう。いくつもの未来が立ち現れたことへの驚きの表情のようです。1964年の銀座三越は、内にも外にも、希望や夢があふれていました。前途洋々の新婚旅行になったことでしょう。
この続きにも、驚かされました。
P.80
ふたつ目は、実はこれは文筆家の大竹昭子さんが気づいた視点なのですが、通りを歩く女性と、銀座三越のなかから出てくる男性が、風呂敷で何かを包んで持ち歩いていることです。
自分でも確認しました。両人ともお上りさんには見えません。手前のアップで写っている女性の方は、さほどお年を召していないのではないでしょうか。もしかすると、仕事中かもしれません。コート姿の右手には確かに風呂敷包みが見えます。お役所勤めでしょうか。あるいは堅めの職場(当時はそれが普通だったような)。
そういえば、外で風呂敷包みを手にした人を見なくなったのは、いつ頃からでしょうか。
あるいは冠婚葬祭だけでなく、子どもの卒業式で母親が着物だったのは、いつ頃まででしょうか。
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写真に加えて、森岡さんのイラストがいい。かつて一世を風靡した妹尾河童さんとはまた違った風合いの建物イラスト。添えられた手書きの説明もよろし。
ただし、老眼で文字を読み取るには拡大鏡が必須かな。
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森岡さんの書店は、かつて茅場町にあったときに行ったことがありました。リンク、こちら
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【目次】 1 和光の鐘 2 銀座の柳とアンリ・シャルパンティエ 3 ライバルとビヤホールライオン銀座7丁目店 4 鳩居堂の偶然 5 はち巻岡田の味 6 森茉莉と贅沢貧乏と銀座 7 銀座の紫陽花 8 考現学と童画の1925年 9 1600年頃の銀座 10 ソニーパークと東京大自然説 11 ドーバー ストリート マーケット ギンザとマロンパイ(贅沢貧乏として) 12 木村屋のあんぱん 13 銀座の思い出 14 中村活字 15 銀座三越の伊藤昊写真展 16 空也餅と『我が輩は猫である』 17 ブルーノ・タウトのミラテスと隈研吾 18 『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』読書感想文~銀座の観点から~ 19 寺田寅彦『銀座アルプス』の一考察 20 ガス灯と新聞と銀座 21 「いき」と銀座 22 煎酒の味 23 銀座生態系ツアー 24 月光荘のスケッチブック 25 「銀座グラフィックデザイン」ツアー〈前篇〉 26 「銀座グラフィックデザイン」ツアー〈後篇〉 27 銀座2丁目交差点のエネルギー 28 白須正子と銀座 29 銀座のスカジャンと新橋色 30 丹下健三と銀座 31 小泉八雲と大和屋シャツ店 32 化粧品の香り 33 銀座の清掃 34 「よしや」の「どら焼き」から 35 京都と銀座とモランディ 36 銀座の土壌 37 銀座1丁目で地中海 38 銀座と雑貨 39 和田誠の銀座の一側面 40 800日間銀座一周 |
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文体で損をしていないでしょうか。稚拙っぽく受け取られやすい印象です。常態・敬体でいえば後者の方。この敬体(ですます調)ってやつは手紙文だとまだいいですが、いわゆるエッセイやコラムでは難易度が意外と高いんじゃないか。
文章の内容はというと、これがなかなかユニーク。いきなり100年前の物語(創作)が展開したかと思うと、つづいて現在の実話に切り替わったり。まあ、ちょっと面食らいますわね。第1回から40回まで、統一したストーリーなどはありません。それぞれの回で、独立したものになっています。写真は1964年なんですから、場合によっては違和感あります。それが面白いんですけどね。
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