[NO.1652] ふくらむ読書

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ふくらむ読書
岡崎武志
春陽堂書店
2024年05月25日 初版第1刷発行
207頁

本書を読みながら何度も感じたのが、「自分はこうした文学が好きだったんだな」ということでした。今さらながらですが、本書を読むことで、それをあらためて思い知らされたような気がします。

現在では消滅してしまいましたが、かつての「文学」がもっていた香りを思い出しました。小説(私小説)や評論だけでなく、オカタケさんが「詩」をこんなにのお好きだったことを知って、うれしくなりました。これまでにも何冊か読んできたのに、この人は「詩」が好きだったことにまったく気がつきませんでした。今までに、どこか「詩」が好きだったことは書いてあったっけ? というのが率直な感想です。あやや。

本書は装丁が好ましくて、なによりソフトカバー表紙の手触りからしてたまりません。装幀はクラフト・エヴィング商會[吉田浩美・吉田篤弘]です。

【出版社サイトから】
「本を読む楽しみって何だろう」
『オカタケのふくらむ読書』掲載作品に加え、前連載『岡崎武志的LIFE オカタケな日々』から「読書」にまつわる章をPICK UPして書籍化!
一冊の本からどんどん世界をふくらませます。

【目次】
前口上
『第十 折々のうた』から桜井吏登、そして俳諧師の収入について
山岡周五郎『青べか物語』を歩く
事典に自分で書き足す――大阪オールスターズ編『大阪呑気大事典 第一版』JICC出版(一九八八)
一九七六・文学的考察――『文藝』一九七六年一〇月号
対談集の効用
『銀座百点』創刊第五号を買う
質屋小説『蔵の中』
その人の実物と肉声を知っている『遊園地の木馬』
 梶井基次郎『檸檬』新潮文庫の注を疑う
 松本清張「典雅な姉弟」
 本を読むのは吉田健一だけ
 キジを撃つ
 『どくろ杯』の東京
 一九一七年の流行語
 谷崎潤一郎『蓼食う虫』を読む
 裸本の魅力
井伏鱒二作品を映画化するとしたら
京都で買った中村康樹『ジャズメンとの約束』
少年コミックスの単行本が欲しかった
詩集を買う、そして読むことについて
007シリーズとイワン・フレミング
007シリーズふたたび
鶴見線ツアー
永井荷風が小鳥を飼っていた
 一九九二年の青春無銭旅行
 田宮虎彦は自転車に乗って
 『原色 秋の野外植物』裸本の魅力
 森進一訳テオブラトス『人さまざま』
 三好達治「燕」を読む
 ここが「針原」か!
 古本が売れた時代
 最初の詩人
 歩行不能の俳人・富田木歩のこと
この装幀造本だからこその読書――三月書房の随筆シリーズ
中里恒子『歌枕』はいいぞ!
無着成恭編『やまびこ学校』
『パーフェクトデイズ』の平山は本を読む男
川本三郎『映画の木洩れ日』
水丸を探せ
 月を待つ
 島村利正「焦土」に見る熱き師弟関係
 荷風『ボク(サンズイ+墨)東奇譚』
 面倒な男だな、久保田万太郞
 上林暁「花の精」とはこんな話
 仕掛人藤枝梅安は小林桂樹で
 永井龍男「いてふの町」は銭湯文学の傑作
 蹴鞠の名手、飛鳥井雅有という男
あとがき

【初出について】
P.8
前口上
 二〇二三年五月まで春陽堂書店のウェブページで一〇四回を数えた連載『オカタケな日々』が終了し、引き続き新しい企画として始まったのが『ふくらむ読書』だ。旧連載が読書、映画、テレビ、食、散歩、生活雑感など多岐にわたる話題を取り上げてきたのに対し、新連載は本と読書に特化した。(以下略)

P.206
あとがき
 本書で春陽堂書店さんから出してもらった本は四冊目となる。ありがたい話です。
『ふくらむ読書』の成り立ちについては「前口上」に書いた通り。「ふくらむ」というより、はみ出しや脱線の話も多いが、それが楽しいとも言える。
 一冊の本を足掛かりに、気づいたことや知ったことを報告しているわけだが、多くは、その道の専門家からすれば、基本中の基本のような知識で笑止かもしれない。六十半ばを超えて、今ごろ何を言っているのか、と。しかし、私にとってはささいな発見がいちいち新鮮で、すぐさま読者に届けたいという気持ちで書いた。(途中略)
 なお、春陽堂書店のウェブページに連載の「ふくらむ読書」は現在も連載中である。無料配信されているので、また立ち寄ってみてください。(以下略)

春陽堂ふくらむ読書 リンク、こちら 

 ◆ ◆

全ページどこを開いても面白い。どこか取り上げようとして......、とてもじゃないけど選べません。そんな中で、あえて幾つか。

【対談集】

P.40
対談集の効用

抜粋しきれないので、人名だけ
遠藤周作、北杜夫、吉行淳之介、開高健、田村隆一、丸谷才一、司馬遼太郎、野坂昭如、山口瞳、小林信彦、井上ひさし

『恐怖対談』(吉行淳之介、新潮文庫)淀川長治ゲスト「こわいでしたねサヨナラ篇」アラン・ドロン主演『太陽がいっぱい』について、「あの映画はホモセクシュアル映画の第一号なんですよね」と驚愕の発言を手繰り寄せた。

野坂昭如・長部日出雄『超過激対談』(文藝春秋。一九八七)→対談集の傑作

【詩について 二篇】

P.130
三好達治「燕」を読む
→ 『測量船』所収 

P.133
ここが「針原」か!
荒川洋治 のことを敬愛する詩人と呼んでます。なにしろ荒川洋治が卒業した福井県立藤島高校の最寄り電停「田原町」まで出向いたことがあるというのです。路線はトラムだそうです。このコラム冒頭で紹介しているのが、TV録画したという番組でした。
テレビ神奈川『新・鉄道ひとり旅 福井鉄道編』(出演・吉川正洋)