[NO.1630] 都市回廊/あるいは建築の中世主義

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都市回廊/あるいは建築の中世主義/中公文庫
長谷川堯
中央公論社
昭和60年07月25日 印刷
昭和60年07月10日 発行
423頁

【きっかけ】
『風景十二』(坪内祐三 著、扶桑社 刊、2009年10月)で紹介していました。

P210
『帝都物語』の中で、日本橋の城門中央の橋脚に背中合わせに座っている二匹の麒麟が東京の守り神として描かれている。
 これは長谷川堯の名著『都市廻廊』にインスパイアされて創案されたものだろう。
 『都市廻廊』を私は『東京人』編集者の基本図書として読んだ。
 日本橋を設計した妻木頼黄は江戸の幕臣の血筋つまり明治維新の"負け派"だった。
 かつて江戸は「水の都」と言われていた。それを「陸の東京」に変えようとしたのが明治の新しい権力者だった。妻木はそれに密かに抵抗しようとしたと長谷川堯は言う。つまり妻木は、橋の上からではなく下からの風景を意識して日本橋をデザインしたのだ。

(P.69)「もしかりに、妻木にこのような隠された意図があったことを疑うものがあれば、明日にでも日本橋へ出かけていって、橋の上からではなしに(「橋の上からではなしに」に傍点)、舟かボート、少なくとも土手にしゃがむなりして、この橋を眺めてみればただちにその疑念を晴らすだろう。」からはじまる坪内祐三による本書からの引用は、長文です。

このツボちゃん引用部分を確認したくて、本書を読みました。『東京人』編集者の基本図書ですからね。

ところが、すぐに『都市廻廊』の魅力にやられてしまいました。こりゃ、文学です。参りました。1975年に毎日出版文化賞を受賞しています。ちっとも知りませんでした。文体がアジテーター風というか、濃密で、70年代初頭までの思想書にあった文体を思い起こさせます。

中身に関して、これはもう、文学ですから、読みでがあって嬉しい限り。どこをとっても、引き込まれます。

知らなかったことが、うかつでした。

荷風『日和下駄』は別として、木下杢太郎は、ほとんど読んでいませんでした。[NO.598] 新編百科譜百選/岩波文庫 は、見事でした。リンク、こちら ましてや、ジョン・ラスキンでは、まったく読んではおりません。

【うらすじ】
明治末から大正に書けての日本近代建築の中に〈中世主義〉の水脈を見いだし、その後の近代都市の機能主義が圧殺してしまったもうひとつの都市の可能性とユートピアを開示する。毎日出版文化賞受賞作。


目次

第一章 11
「所謂今度の事」をめぐって 12
叛逆者 17
大正元年の COCA COLA 21
三田の丘の上 28
小さいものから 34
高松政雄のラスキン 42
新しい心斎橋と日本橋 49
りうりうと仕上がったのでお芽出度い 53
河のなかの「江戸の唄」 58
妻木頼黄という建築家 63
「陸の東京」への咆哮 67
水上のシャン・ゼリゼ 72
荷風の中世主義 85
日和下駄に蝙蝠傘 89
裏町と横道を行こう 95
軽蔑なしに羨ましい 103
細長い〈囲い地〉 108
コバルトの空の下の虞美人草 120
水上都市の構想 127
「メイゾン鴻の巣」 131
芝の上に居る 140
復元街区 145
小屋談義 152
「物いひ」 160
四十二年組 163
山崎静太郎の構造の主体性の主張 167
反論 175
レアリテとヴェリテ 183

第二章 193
〈囲い地〉について 194
囲壁の内側 201
都市改造の根本主義 207
バラック 212
相互扶助 222
復興都市の建築美 230
賀川豊彦の学会での講演 238
ギルドとサンジカ 241
〈都市〉としてのハワードの発明 250
『ガーデン・シチーに就いて』 260
樹木をよける道 267
コテージ 272
内部のふくらみ 278
日本のカントリーハウス 284
ヴォーリズと近江八幡 287
モリスと云ふ先生 292
ある提案 296

第三章 305
『様式の上にあれ』 306
考え方の変化 314
未来への遁走 320
現在 326
神の降臨 332
了解量塊・表面・平面 337
陰影 342
北への視界 351
ストックホルムの石 356
バルセロナで 363
雪の中に立つ 371
部分から全体へ 379
手と機械 387
私のロマネスク 395

あとがき 401
文庫版あとがき 405
本文注釈 419
人名索引 423

『都市廻廊 あるいは建築の中世主義』
     一九七五年七月 相模書房刊

論文掲載誌
『建築』一九七三年一月号より十二月号まで
(原題「日本の中世主義」)
 ただし、第二章の〈囲い地〉について」および
「囲壁の内側」(一九四~二〇七頁)については、
『現代詩手帳』一九七四年九月号
(原題「〈囲い地〉がもたらすもの」

カバー・木下杢太郎著『食後の唄』より