新編百科譜百選/岩波文庫 木下杢太郎画/前川誠郎編 岩波書店 2007年1月16日 第1刷発行 |
木下杢太郎について、巻末に「木下杢太郎小伝」として簡略にして要領を得たまとめがあります。略歴自体はおおよそ知っていたことでしたが、それよりも併せてある「解説」を読み、「百科譜」の位置づけの方に驚きました。
木下杢太郎は、東大医学部を卒業してフランスを中心に海外留学、昭和十六年には細菌学研究の業績によりフランス政府からレジオン・ドヌール勲章を授与さ れています。恵まれた境遇で医学と文学の両方に仕事を残した(森鴎外になぞられるような)生涯だとばかり思っていました。しかし、亡くなる間際まで描き 綴ったという、この「百科譜」に対する杢太郎の思い入れを知ると、とても鴎外とは重ね合わせられない人生の終焉を感じます。
「百科譜」は昭和十八年三月十日に始まり、病のため入院を翌日に控えた昭和二十年七月二日まで続けられました。戦時下の灯火管制のもと、ときには深夜に いたるまで、ほぼ毎晩描き続けられたのだと聞くと、何ともいえない気持ちになります。亡くなったのは昭和二十年十月。編者によれば、植物の選び方も、日々 迫る食糧難に備え、せめて食べられそうな植物を考慮して選んでいたのではないだろうか、とのこと。文人の余技ではありません。
岩波文庫で使われている、いつもの紙質ではなく、上質厚手の用紙です。そこに描かれている絵はどれも美しいものばかり
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