このごろ出不精になっていたので、思い切って横浜まで出かけました。神奈川県立近代文学館はひさしぶり。途中、港の見える丘公園内にあるバラ園が見頃でした。
順番に展示を見ていて、例の駒場祭ポスターの手前、卒論展示の向かい側パネルに「これ」がありました。あまりにも気になったので、走り書きでメモ。(会場内は撮影禁止)。帰りに購入した図録には、ちゃんと、このパネルの内容が掲載されていました。そんな予感はしたのですよ、あはは。
歌舞伎
大学時代、橋本はなぜ歌舞伎が好きかとよく問われ困ったという。答えは「『よく分からないもの』が好きだから」。その解明にとりかかり、卒論のテーマにはその戯作者の鶴屋南北を選んだ。卒業後は雑誌「演劇界」にイラストレーターとして関わり、文筆家となったのちも歌舞伎に関わる数々の文章も残している。私は、「分かられる人間」より、「分からないけど魅力のある人間」になりたい。だからこそ私は、「なんだかよく分からないけど魅力のある人間」を放っといてくれない近代の(中途半端な)合理主義を嫌悪します。私にとっての江戸歌舞伎とは、「自分の都合のいい分かり方」しか望まない近代の合理主義を撥ねつけてしまう「なんだか分からないもの」の典型なのです。
――『大江戸歌舞伎はこんなもの』あとがきから
どうして、これが気になって、メモまでしたのかというと、先月読んだ『不思議な時計/本の小説』(北村薫著、新潮社刊)に、俳優の柄本明さんの「何でこんな、分からなくちゃいけない世の中になったのかね。」という言葉が紹介されていたからでした。
P93
NHK『最後の講義「俳優 柄本明」』
得るところの多い放送でした。と北村薫さんは書きます。難解さで知られるサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』
《ちんぷんかんぷんで分からない》
しかし、柄本には、分からないものを《分からない》といえる大きさがありました。劇の最後で、二人の登場人物、ウラジミールとエストラゴンが木を挟んで、さよなら、さよなら、こんにちは――という。
泣けたね。分からないけど泣けたね。何だろうね。全然分からない。
この後、柄本は《生きてるってことは、待ってるってことなのか......》という、意味を求める者には、解と思えるようなひと言をつぶやきます。しかし、それに続けて、こういうのです。
何でこんな、分からなくちゃいけない世の中になったのかね。
柄本明さんの言葉とそれを紹介する北村薫さんの文章が、忘れられないでいたところに、たまたまこのパネルに出会って、驚いたのです。
「なんだかよく分からないけど魅力のある人間」を放っといてくれない近代の(中途半端な)合理主義を嫌悪し」、「『よく分からないもの』が好き」な橋本治さんと柄本明さん、北村薫さんの3人がここで重なった気がしました。
橋本治さんには『「わからない」という方法』(集英社新書)があります。
◆ ◆ ◆
展示は数も多いだけでなく、どれもが見応えありました。
家族アルバムがあり、子どものころのページが開かれていました。モノの乏しかった昭和20年代までくらいの写真は、どれも印字されたサイズが小さいのですよね。セーターを着た幼年時代の写真に、目がとまりました。それはお母さんの手作りなのでしょうか。似たようなデザインのセーターを自分でも着ていた記憶があります。年齢はひとまわりも違いますが。
橋本治さんのニット作品のなかで、大学に着ていったという、デヴィッド・ボウイの顔を編んだセーターが見たかったな。展示のなかでは、綿の国星のチビ猫が、すごくよかったです。
◆ ◆ ◆
醒井さんと木川田くんのミナトヨコハマ てくてくMap
~『雨の温州蜜柑姫(おみかんひめ)』(シリーズ第6期)から~
中野サンプラザで待ち合わせ、醒井さんが乗ってきた〈お父様のベンツ〉で首都高速横羽線、ベイブリッジを通って、横浜へやって来た2人。コンサートの前に少し遊ぼうと山下公園駐車場に車を停め、散策開始! ところが......
どうして、こんなことになってしまった? 鍬形が左右逆ですね
[Yahoo!ニュース] から
コメント1件 |
今回の展覧会のちらしにも、この写真は使われています。会場である近代文学館の正面にも、でかでかとポスターが飾られています。なにより展示品として、実物が飾られていました。
いろいろな人の目に触れているだろうに。ウルトラの婆々さん 以外には、鎧兜(よろいかぶと)の角(つの)、鍬形(くわがた)が左右逆であると指摘した人を知りません。「鍬形(の向き)」でネット検索すると、すぐに出てきます。
橋本さんが鎧と並んで立つ、この写真は、新潮社の提供とあります。出版社の校閲であれば、こんなことを見逃すはずないでしょう。それとも、いやいや、大作『双調 平家物語』の著者が気づかないはず、あるわけがない。
そもそも、この鎧って、橋本治さんの仕事場の入り口に置かれていたものです。ご本人は、意外とそんなこと気にもせず、むしろ面白がっていたのかな。武者小路の偽色紙といい、サングラスもインパクトが強いし。どれもがみんな、ネタだったりして。助手の塚原一郎さんが「ほぼ日刊イトイ新聞」で答えています。ウケたがる男子中学生のままだった リンク、こちら
それにしても、すごく大勢の人が目にしたはずです。不思議な人だな。
そして、あえてこの写真を展覧会ポスターに使った人もすごい。
そういや、我が家では飾り方を間違えないよう、記録として写真に撮っていたことを思い出しました。一年後に忘れないためにも、そうするといいよ、とご近所さんがウチの親に話していました。はるか昔のことです。
コメント