[NO.1588] 山川静夫芝居随筆

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山川静夫芝居随筆
山川静夫 著
演劇出版社
平成15年02月27日 初版発行
254頁

歌舞伎の詩情...美しさ、楽しさ、こよなく芝居を愛する山川静夫珠玉の随筆集。4章に70篇の名随筆。洒落た筆致。さらりと読んで、知識も豊かになります。90歳まで舞台に立った多賀之丞のインタビューも貴重。 出版社サイトの紹介から リンク、こちら 

NHKの古典芸能番組には「邦楽百番」「邦楽のひととき」「古典芸能への招待」「カブキ・チューン」などがあります。それなのなかでも、親しみやすさからいって「古典芸能への招待」が、いちばんなじみ深い気がします。なんといっても司会者高橋英樹さんの笑顔、お人柄がいいです。

きっと高橋英樹さんは、比ぶべくもないとおっしゃるでしょうが、かつてNHKの古典芸能で有名だったのが本書の著者山川静夫アナウンサーでした。昭和20年代後半に過ごされた学生時代は、「歌舞伎三昧に明け暮れ(P.7)」たとあります。当然のことながら、大向うの会にも入っていたとのこと。

本書に綴られたエピソードの数々、畏れ多いばかり。

冒頭の「歌舞伎おでん」、歌舞伎座三階のおでんの店。中央線立川から通ってくる小川としさんの心粋。腹をすかせ学生に低料金で食べさせてくれたといいます。昭和二十年代のはなし。

やっぱり出てきたんだと思ったのが、「料理人と芝居」での八代目三津五郎さんが河豚で亡くなったはなし。

「とび出したおつるのオチンチン」には絶句、ののち捧腹絶倒でした。(もちろん心のうちで)。こんなインタビューがあったというのが驚きです。

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[NO.1585] 水 本の小説 のなかで、北村薫さんが本書を引き合いに出したのは P22「再起―勘三郎との思い出」 でした。それにしても、どうして、ここだったのでしょうか。

そもそも、本書を読んでみようと思い立ったのは、『水 本の小説』に本書のことが出てきたからでした。そして、やっぱり読んでよかったと思いました。北村薫さんが、かいつまんで要領よく(本書の「再起―勘三郎との思い出」を)紹介してくれる、その手際のよさからは、本来山川静夫さんが書いたときの意図から逸脱してしまった部分が生じたのではないかというのを、自分の目で確かめてみたかったのです。

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目次

第1章 歌舞伎おでん
歌舞伎おでん 6/なつかしき大向う 11
「初日特定狂言」や「ソソリ」があった頃 13/どぜうの余禄 16
『宵宮雨』こぼればなし 19/再起―勘三郎との思い出 22/鳥屋の人 27
黒衣の世界 30/劉生の眼力 33/演藝趣味日記 36/芝鶴の『役者の世界』 38
感性の教育 41/お蔦の櫛 44/劇場の椅子にて 47/角書に託す 49
愛宕山の別れ 52/一枚の写真 55/とっておきの涙 58

第2章 長右衛門の年忌
長右衛門の年忌 62/上方ことば 67/折口信夫讃 69/大阪が生んだ役者 72
境界線のない時代 75/父子あらたまる 77/孫に伝える 80/観阿弥の碑 83
酒井の太鼓 85/吉良町にて 88/鷲見房子さんのこと 93
『引窓』のメリハリ 96/心の映像 98/淀長さんは歌舞伎好き 101
博多座の夢 104/西からの便り 106

第3章 芸に遊ぶ
芸に遊ぶ 112/火花 117/芝居道 120/百年前の世紀末 123
歌舞伎の個性よ何処へ 125/寺子屋に学ぶ 128/歌舞伎用語の表現・表記 130
義太夫の字づら 133/世話物のセリフは難しい 136/「歩く」ということ 138
自分の音程 141/愚劇の正体 144/歌舞伎の値打 147/大安売り 150
加賀蔦の端役 155/尾上の合薬 157/料理人と芝居 160/日本髪 163

第4章 駒助の肩
駒助の肩 168/助高屋高助 173/南部屋 176/照蔵恋し 178
"荒川さん"の役目 181/"大統領"の素顔 184/田圃の太夫 187/歌舞伎育ち 189
西郷さんの極付 192/長十郎の『屈原』 197/翫右衛門のセリフ術 199
老境の寿海 202/高股立と長袴 205/松緑が話したこと 208/伯父さん 210
雪のあした 214/歌右衛門の挨拶 217/藤娘の人 220

第5章 多賀之丞今昔ばなし
尾上多賀之丞インタビュー 226/とび出したおつるのオチンチン 227
下痢に「あたしゃ血の道が......」 231/顔の作り方と芸の腕前 235
女形は澤村源之助直伝 239/ばばあ役ではゼニがとれない 245
死んだ亭主がえらすぎた 248

あとがき 252