生物のかたち/UP選書 ダーシー・トムソン 柳田友道、遠藤勲、古沢健彦、松山久義、高木隆司 訳 東京大学出版会 1973年7月20日 初版 1977年8月15日 3刷 |
奇書。面白し。『胎児の世界』(三木成夫著、中公新書)を想起。『[NO.797]「しるし」の百科』(荒俣宏著、河出書房新社刊)の中に紹介されていたことから手にしてみた本。
原著は第1版が1917年出版、改訂した第2版が1942年。1969年第1版を基に編集し直した版が出版され、それをもとにさらに抄訳したものが本書だそうです。紆余曲折。
例の魚のかたちを見つけると、ありました。P189。「図60 種々の魚の座標変換」。人間の頭蓋骨との比較など、その他にも図版多数。
訳者あとがきの中で遠藤氏が述べているように、「液中に落下する液滴の形状とクラゲのかたちを類推」し、「液滴の飛びはねるさまとヒドロの口蓋のかたちを類推している」や、橋桁と四足動物の骨格を比較しての類似点の指摘など、笑い出してしまいそうな内容。
「イッカクのつの」の説明が圧巻。訳者あとがきの中で松山氏が書いています。
P213
この本の翻訳では,英国の良き時代の先生の書いた格調高い英文に悩まされ,なかなか仕事がはかどらなかった.それでも,なんとか翻訳を済ませることができたのは,トムソンの考え方の奇抜さに引きずられてきたからである.鮮やかに現象を説明している箇所に混じって,眉に唾をつけて読みなおさなければならないようなところもあるが,読者の興味を引くのはこの眉唾の部分のほうであろう.
たとえば,イッカクのつの(実は歯)にねじ模様が刻まれる原因の説明(131頁)を読まれたあと,多くの読者はちょうど永久機関の作動原理をまことしやかに説明されたあとのような,もどかしい感じをもたれるのではなかろうか.
イッカクという動物自身,滅多にお目にかかる機会のない奇妙な動物である.イルカの仲間で,雄の上あごの2本の歯のうち,左側の歯が成長してつののようになり,ときには2.7mにもなるといわれている.まれには,右側の歯が成長するもの,あるいは左右とも成長して2本のつのをもつものもあるが,いずれも,つのには左巻きのねじが刻まれている.図版を載せられなかったのは残念であるが,世界大百科事典(平凡社)の"イッカク"の項,あ.るいはE・J・シュライパー著「鯨」(細川宏・神谷敏郎訳/東大出版会)に図版が載せられているので,興味のある方は御覧になるとよい.
ごまかされたような気がしても,誤りをはっきり指摘できないかぎり,トムソンの説も存在を許されるわけであるから,読者も対抗して独自の奇抜な説を立てて楽しまれてはいかがであろうか.「理屈とバンソウ膏はどこにでもくっつく」という諺(?)もあるが,この本はバンソウ膏をつけるところをいくらでも提供してくれるだろう.読みながら独自の説を立てるのも,この本の楽しみ方の一つかもしれない.
松山久義
目次
訳者まえがき
1 序章
2 生物の大きさと行動
相似則
敏捷性と体格
体長と熱収支
跳躍
歩行
飛翔
視覚と聴覚
生物にはたらく種々のカ
大きさへの制約
3 細胞のかたち
表面張力で決められるかたち
プラトーの回転面
平衡状態の不安定性
液滴のはねかえりと液体噴流
非対称性と非等方性
4 組織細胞または細胞集合体のかたち
表面張力の釣合い
細胞の隔壁
細胞の最密充填とミツバチの巣
空間の分割
血管の太さと分岐
5 針骨とその集合体構造
生物体内の結晶様構造と針骨
海綿の針骨の三射出形
針骨形成の仕組
六方海綿の針骨
放散虫の骨格
軸対称性と液晶
6 らせん構造
生物界にみられるらせん構造
アルキメデスのらせん
等角らせん
ノーモン
植物のらせん構造
月殻のらせん構造
有孔虫のらせん構造
7 つのと牙のかたち
つの
歯,くちばし,爪
イッカクのつの
8 かたちと機械的強度
引張りと圧縮
かたちと強度
骨の構造
応力とひずみ
骨格と橋梁の比較
水生動物
進化と系統
9 かたちの変換と比較
数式によるかたちの表現
座標によるかたちの表現
関連したかたちの比戟
座標のデカルト変換
放射線座標
特殊なかたち
伸びとずれによる変形
甲殻類
ヒドロ
魚
爬虫類と鳥類
哺乳動物の頭蓋骨
3次元の座標系
10 むすび
人名索引
生物の歴史と地質時代
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