[NO.458] 「芸能と差別」の深層/ちくま文庫

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「芸能と差別」の深層/ちくま文庫
著者 三國連太郎沖浦和光
筑摩書房
2005年5月10日 第1刷発行

 三國連太郎氏の伝記を読んでみたいと思うことがあります。そんな本はこの世に存在しませんが。今回の対談でも、ご自分については三國氏自身あっさりと語っているだけです。それでも面白いですね、徴兵忌避の事件は特に何度読んでも。(別の本でも紹介されていました)
 旧制中学2年で退学し、家を出る。大陸に渡り、その後帰国し、大阪へ。16歳~20歳まで放浪。なんといっても、徴兵忌避を実母が憲兵へ通報し、大陸へ逃げる寸前に逮捕されたというくだり、劇的です。息子が兵役を忌避したままでは、残された家族を守りきれないと判断した母が警察に知らせたのだといいます。すごい。

 本書は題名のとおり、「芸能と差別」の関係を主軸に二人の対談が縦横無尽に飛びまわります。読んでいて実にスリリングです。NO.453『最後のひと』(山本夏彦著、文藝春秋)で は、「役者買い」だなんてことが説明されていましたが、こちらの本では沖浦氏という学者がお相手だけあって、芸能の始原から説き起こしており、実に丁寧に説明されます。後ろの方では、沖浦氏がお好きだという荷風について触れ、有名な大逆事件についての記述(断腸亭日乗)を紹介してもいますが、基本は大和の古来から連綿と続く芸能と差別の関連についてを述べあう内容。国家が形成されたときからの歴史です。

 難をいえば、やや型にはまったところがないわけではありません。また、「いきざま」という語が頻出すること。それも、お二人の口から出るのです。一気に興醒め。

p22
沖浦 故郷は伊豆ですか。
三國 ええ、聞いております限りでは、祖父の時代から故郷は伊豆なんです。でも、私が生まれたのは群馬県なんです。親父(おやじ)は、祖父の後を継いで棺桶(かんおけ)を作っていたようですが、日本政府がロシア革命に干渉してシベリア出兵を強行した時、条件付きで志願したんだそうです。
 シベリアから帰ってきてから、軍属として働きながら覚えた技術を生かして、電気工事の職人になったようです。それから転々として、発電所の工事をやったりして各地を歩くのですが、ちょうど私が生まれた頃には、群馬県の太田という町で発電所の工事をしていたそうです。