[NO.1684] 嘘と正典

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嘘と正典
小川哲
早川書房
2019年09月20日 印刷
2019年09月25日 発行
283頁

小川哲さんの小説を読むのは本作が初作品。『地図と拳』も『火星の女王』も気になりながら、これまで読んでいませんでした。

『本の雑誌 2026年3月号』のなかで藤岡みなみさんが『嘘と正典』を紹介していたのが本作を読んだきっかけです。『マイナスゼロ』『リプレイ』などとならべて紹介しています。『夏への扉』『ゲイルズバーグの春を愛す』などの定番とは違って、目新しく新鮮でした。

内容説明
零落した稀代のマジシャンがタイムトラベルに挑む「魔術師」、名馬・スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる「ひとすじの光」、無限の勝利を望む東フランクの王を永遠に呪縛する「時の扉」、音楽を通貨とする小さな島の伝説を探る「ムジカ・ムンダーナ」、ファッションとカルチャーが絶え果てた未来に残された「最後の不良」、CIA工作員が共産主義の消滅を企む「嘘と正典」の全6篇を収録。

紀伊國屋書店サイトから リンク、こちら

早川書房サイトの紹介フレーズが面白し。リンク、こちら
圧倒的な筆致により日本SFと世界文学を接続する著者初の短篇集。

ここでひとつ疑問がわきました。「日本SFと世界文学を接続する」って、どなたが考案したものなのでしょうか。ここでポイントは、どうして「日本SF」に対応するのが「世界SF」ではなく「世界文学」なのかということです。日本国内では「文学」たり得なくとも、国際的には「(世界)文学」であるぞ、ということでよろしかったでしょうか。
そうだとするなら、やりますねえ早川書房! と応援したくなります。いえいえ、なによりも小川哲さんをまずは応援すべきでした。

 ◆ ◆

著者にとって、初の短編集ということもあってなのか、あえて6つの作品形態が異なります。読者に向けて、これでドーダ! って力がこもっている(という印象)。
共通しているのは、どれもが「思考実験」であること。たとえば量子力学などの物理問題を思い浮かべるとよさそう。「シュレジンガーの猫」の例とか。

6作品の中でのいち推しは、表題にもなった「嘘と正典」。インパクト大の表紙マルクス顔面写真が秀逸です。これがもしもエンゲルスだったら......。この作品だけが書き下ろしなんですね。
そもそもが、「クック・アンド・ホイートストン式電信の技師だったサミュエル・ストークスは、」なんて固有の名称が冒頭から無造作にポンと置かれてしまっては、マニアックな読者が飛びつくに決まっています。こういうつかみが小川哲さんの特徴なんでしょう。

 ◆ ◆

https://nichijyo.mydns.jp/2025/10/31/tutuku.jpg

【疑問点】(重箱の隅つつくの助)
「ムジカ・ムンダーナ」
主人公の自宅は東京のどこ?(どうして厚木PAなのか)

短編の4作目「ムジカ・ムンダーナ」の前半部、仕事先から主人公が自宅に向かって高速道路を運転中の場面。道路は関越とあります。

P.124 夕方の関越は空いていたが、

すると、その関越道から圏央道に入るのだそうです。

P.126 トイレに行くために圏央道に入り厚木PAに寄る。

不思議です。関越から圏央道なら、分岐は鶴ヶ島JCT経由でしょう。そこからトイレのために、どうしてわざわざ厚木PAなのでしょうか。その手前の狭山PAにだってトイレはあります。しかもその車は20数年もののカローラ。燃費は悪いし加速も遅い。ハンドルは宇宙船のハッチみたいに重い。

もしかすると、自宅は神奈川(川崎とか)なのでしょうか。いいえ、違います。

P.131 カーナビ代わりに起動していたスマホのアプリが、東京都に入ったことを告げた。

やっぱり東京都でした。自宅は町田あたりでしょうか?

P.132 高速を降り、赤信号で停車したときに、僕はカセットプレーヤーをネットで購入した。

ここでやっと高速から降りました。いったいどの降り口なのでしょう。

◆もしかして、最初に記述のあった「関越」ではなくて、「中央道」だったとか?

◆重箱の隅の隅をつつくとすると、赤信号で停車したとき、ネットで購入するというのはマズくない? 今の時代は、すぐにコンプライアンスがどうとか言われる時代ですから。
(スマホ操作時は)路肩に駐停車しなくてもいいんか! とかね。