[NO.1665] 学校では教えてくれない 人生を変える音楽 (14歳の世渡り術)

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学校では教えてくれない 人生を変える音楽 (14歳の世渡り術)
角田光代、池辺晋一郎、又吉直樹、雨宮処凛、池谷裕二、浦沢直樹、遠藤秀紀、大崎善生、乙武洋匡、今日マチ子、清塚信也、小手鞠るい、近藤良平、桜井進、柴田元幸、小路幸也、辛酸なめ子、高嶋ちさ子、西研、林丹丹、町田康、松井咲子、みうらじゅん、宮下奈都、本川達雄、山田ズーニー
河出書房新社
2013年05月20日 初版印刷2013年05月30日 初版発行
185頁

筑摩書房「ちくまプリマー新書」というシリーズものがあって、これがなかなか気に入っています。中高生向けではありますが、侮れません。ややこしいことを丁寧にわかりやすく説明されるとすっきりします。

本書はそのキャッチーなタイトルに興味をひかれました。

「ちくまプリマー新書」が一人の著者によってテーマを深く掘り下げているのに対して、こちらは多くの著名人が名を連ねています。まるでパッチワークのようにバラエティ豊かなところが特徴でした。魅力は書き手の人選の妙ですね。なんだか年末の雑誌特集で目にするアンケートへの回答集みたいな感じ。12年も前に出版されたので、そのころには旬だった人でも今となっては誰? という書き手も。

原稿を寄せるにあたって、それぞれ人柄が出ているので、そこも面白かったところです。かるく書き流している(風の)人もあれば、これが14歳向けなの? むしろ十分に成人対象の内容だろうといったものまであります。

それぞれ各人が1曲あるいは1枚のCD(レコード)を紹介します。とくにジャズやクラシックの場合などでは演奏者(指揮者)は誰で、何年に場所はどこでの録音かなどが重要ですが、そのあたりもつぼを押さえられています。

不思議だったのが章立てについて。いったいどんな観点で分けられていたのでしょうか。ついでに、それぞれ章ごとに付された中扉にあるロゴが気になります。表紙にもついてることに(たった今、)気がつきました。

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目次


二三歳の僕を救ってくれた曲/「少年花火」野狐禅/又吉直樹/10
そのとき必要な音楽/『Yankee Hhtel Foxtrot』Wilco/宮下奈都/18
『原子心母』の牛を見つめて/『原子心母』ピンク・フロイド/みうらじゅん/24
沢田研二を観ろ/『沢田研二in夜のヒットスタジオ』沢田研二/小路幸也/30
ただ、真っ直ぐに。/「GO NOW」FUNKIST/乙武洋匡/36
何度でも聴きたくなる、癒やしのピアノ曲/『ENCORE』久石譲/松井咲子(AKB48)/42
親密さとなつかしさ/『ウェア・イズ・ラブ?』アイリーン・クラール/西研/49


骨になれ、音に身投げしろ!/『VAMPS』VAMPS/山田ズーニー/58
音と意味の合一/『世界最強河内系歌謡曲集 カワチモンド』オムニバス/町田康/65
ブリトニーの啓発力/『ベイビー・ワン・モア・タイム』ブリトニー・スピアーズ/辛酸なめ子/71
自分の道を歩く/「スコットランド幻想曲」アンネ=ゾフィー・ムター/高嶋ちさ子/77
ひとつずつ、積み重ねて/「毎日がスペシャル」竹内まりや/林丹丹/84
膝を抱えて25分間聴く音楽/『チューブラー・ベルズ』マイク・オロドフィールド/浦沢直樹/92
なつかしい音楽について/『プリーズ・トゥ・シー・ザ・キング』スティーライ・スパン/柴田元幸/98


音楽は流動体/『ザ・ビートルズ・オン・バロック』池辺晋一郎 作曲/池辺晋一郎/106
あまりに美しいドビュッシーの透明な和音/「牧神の午後への前奏曲」「海」ドビュッシー 作曲/池谷裕二/112
Canonとともに/「カノン」パッヘルベル作曲/桜井進/119
完璧なる怨念/「ゴジラ」伊福部昭 作曲/遠藤秀紀/126
生の音楽があふれていた子ども時代/「歌う生物学 必修編」本川達雄/本川達雄/131
恋は尽きぬ/「交響曲5番」マーラー 作曲/清塚信也/137


あなたの本物/「キスしてほしい」ザ・ブルーハーツ/角田光代/146
『お前は何をしに この世にやってきた?』/「PUZZLE」AKIRA/雨宮処凛/152
ニューヨークで一番、チャーミングな猫の弾くジャズピアノ/「The Fattest Cat in New York」及部恭子/小手鞠るい/158
人生の中でひとは、いつかたたずむ/「チャン・チャン」ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ/近藤良平/164
歌はいつまでも変わらずに流れ続ける/「見つめていたい」ポリス/大崎善生/171
お風呂の窓/「Walk on the Wild Side」ル・リード/今日マチ子/177

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みうらじゅんと浦沢直樹が似たようなことをいっている。

P.24
 音楽には、好きで聞く音楽と無理して聞く音楽というものがある。

P.96
この文章につられてCDを購入したけど、なんかよくわかんない、と思われた君。ここからが肝心なところだ。タダ見タダ聴きのこのYouTyube時代に、お金を払って購入するということ、「せっかく買ったのに思ったのと違う」とくやしがること。実はそのれが大事なのだ。くやしいから元をとらなきゃと、好きになろうと何度も何度も聴いてみる。この行動が実は大事なのだ。そうすると不思議なことにある日、「この作品、すごい」。そう思う日が来るのだ。
「この音楽、俺のストライクですよ」みたいな言葉をよく聞く。でもそのストライクゾーンって、真ん中にミットを構えてそこに入って来た球を取っているだけではないのか。音楽にかぎらず、小説、映画、漫画すべてに言えることだが、悪球を全力で取りにいくということである日その悪球すら自分のストライクにした時、初めてその面白さに気づくというもの。

奇しくもお二人が推薦しているのはプログレでした。

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P.103
アメリカ文学者の柴田元幸さんが挙げているのがブリティッシュ・トラッド。『リージ&リーフ』フェアポート・コンベンション、『クルエル・シスター』ペンタングルを紹介しています。あな懐かしや。が、それらはあくまでもおまけとしてで、メインで推しているのは『プリーズ・トゥ・シー・ザ・キング』スティーライ・スパンって、知りませんでしたよ。

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P.106
 のほほんと、ノンシャランに、誰もが音楽を楽しむ時代になった。もちろん、それは結構なことである。

池辺晋一郎さんのお生まれは1943年、執筆者の中では最年長でしょう。注目したのは「ノンシャラン」という言葉です。AI による概要によれば、「1980年代頃まではよく使われていましたが、最近は耳にする機会が減ったという意見もあります」。ファッション業界では今も使われているのだとか。ファッション界隈のことは存じませんが、文芸誌で目にしていたのは昭和30年代あたりまででしょうか。
文化学院やアテネフランセあたりの匂いがしませんでしょうか。

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P.113
ドビュッシー『交響詩「海」、管弦楽のための映像、牧神の午後への前奏曲』
Zig-zag Territoires 2012年
指揮:インマゼール
演奏:アニマ・エテルナ

(池谷さんがいうには)音楽史の研究によれば、ドビュッシーの時代にはビブラートをつけて演奏する習慣がなかったのだとか。そこでドビュッシーのねらった音色を再現しようとしたのが上記に挙げたCDなんだそうです。ところで、Wikiの「アニマ・エテルナ」の項によれば、「2024年9月にインマゼールを「持続的な攻撃的な行動と契約上の義務の定期的な違反」を理由として解任。」(2025年07月06日閲覧)とありました。

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清塚信也さんによる評論について

P.138
 小林秀雄の「モオツアルト」や、村上春樹の「意味がなければスイングはない」などを是非読んでみて欲しい。両者の著書は全く質の違うもので、音楽へのアプローチの仕方もまったく違う。小林秀雄は非常に恣意的に、そして意外性をもってモオツアルトを書いているが、村上春樹は非常に自然体で、個人的なことだけでなく作品の社会的位置や時代背景など、全体的にバランスをとって書かれている。
 しかし、両人どちらにしても、評論が芸術になっているという点で共通している。近年の評論といえば、毒舌でどれだけ作品の隙をつくか、みたいな意地悪いものが多い。
 しかし、本来は評論ですらも芸術作品であるはずなのだ。だから、是非若い方たちには、小林秀雄や村上春樹など、「うまい出逢わせ屋」にお世話になった上で音楽を聴いて欲しいと思う。

「意味がなければスイングはない」が芸術になっていると言われたら、村上春樹は赤面しそうだな。

うまい出逢わせ屋」、語感は抵抗ありますが、おもしろい造語です。清塚さん、気の利いたこといいますね。

「マーラー:交響曲第5番」
徳間ジャパンコミュニケーションズ 1996年
指揮:ヴァーツラフ・ノイマン
演奏:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団