おきざりにした悲しみは 原田宗典 岩波書店 2024年11月08日 第1刷発行 271頁 |
読み出すと面白くてやめらず、年甲斐もなく一気読みしました。深夜2時過ぎに読了。そのおかげで、頼まれていた朝のゴミ出しを遅刻です。あわてて外に飛び出してみると、ウチのゴミ集積場はすでに終わってました。収集車は次のところで作業中です。
ホント、人生で初めてですよ、ゴミ出し袋をにぎって走りました。まるでマンガのサザエさんみたい。ご近所さんは見てただろうな。
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本作はエンタテインメントの王道をいってます。そのセオリーを踏まえていて、作者からのサービス満載。十分に楽しめました。これは、それだけでもういいんじゃないかな、あれこれいわなくても。この先、続編があるわけじゃなし。(まさか、出ないですよね?)
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それで、あえて書名について。
原田宗典さんと同じ65歳の主人公にとって、吉田拓郎の歌は身近なものだったでしょう。おじさん読者にはたまりませんでした。この歌の作詞は岡本おさみさんですがね。1972年当時聞いたときには、なんだか気恥ずかしく感じたものです。いかにも歌の文句だよね。大仰な表現というかステロタイプな文言。
「まつりごとなど、もう問わないさ」って「傘がない」じゃないかとか、「あいつが死んだときも、おいらは飲んだくれてた」ときてはまるで演歌だよ、とかね。「落陽」とか「襟裳岬」も演歌っぽかったな。拓郎が自分で書いた詞のほうがカラッとしていて、個人的には好きでした。
可笑しかったのは、出版社サイトに原田宗典さんがカラオケで「おきざりにした悲しみは」を歌う姿がアップしてあったことです。あの天下の『岩波書店』ですからねえ。リンク、こちら
原田宗典さんには1980年代からのファンです。余計なお世話だと言われるでしょうが、メディアで妹さんの名前を目にするたび、いつも案じておりました。そんな古くからの読者の感想です。Tシャツ一枚でマイクを握る姿には、(失礼かとは思いますが)なにか違和感を覚えてしまいました。恥ずかしながら、やっぱり恥ずかしかったとでもいったらいいのか。
ここはひとつ、「一本刀土俵入り」みたいな(大衆)路線をねらってのことなんでしょうか。
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本書には、章立ての数字が本文中に振られていても、目次(というもの)がなかったので、備忘録・メモをとってみました。
1 P.005
2023年8月1日 職場で主人公長坂誠、ケガをする。救急車で近所の病院へ。
手当後、その日のうちに帰宅する。
2 P.015
8月1日 病院から自宅に着く。
小平市の外れに位置する古い安アパートさくら荘21号室。最寄り駅武蔵小金井
大家、桜木浩一、五十がらみ
23号室の子ども生方真子が洗濯機の給水ホースから水を盗もうとしていることに気づき、分け与える。
3 P.023
8月2日 さくら荘
早朝、起床後にコンビニで朝食を買う。親切心から生方真子と圭の兄妹分も購入、差し入れする。
その後、出勤。帰宅後、夕食にカレーを作る。真子・圭の分も作り、自室へ招待する。
兄妹はそのまま自室21号室に泊まった。
4 P.041
真子・圭の母親生方恵、八王子市、東原総合病院で眠り続けている。
それまでの経緯の説明がはいる。
経済的に困って、7月11日以前から知り合いのヤマモトに連絡を取りホテルへ。
ヤマモトにホテルの部屋で睡眠薬を盛られ、生方恵は昏睡状態に陥る。
翌7月12日正午頃に発見され、救急車で病院へ。そのまま入院した。
5 P.053
8月3日(3からの続き、翌朝)さくら荘21号室
子どもたち(真子・圭)と手作りの朝食。そのまま自室の21号室にいていいと告げ、自分は出勤する。
6 P.061
8月3日夜 さくら荘21号室
長坂誠帰宅。真子が盗んだ無人販売所の餃子代金を支払に行く。
7 P.075
大阪
8月1日 長坂誠の父親仁義特養内で死亡 90歳
2人目妻咲子75歳が看取った。その後、火葬する。
8月4日(金) 長坂誠の妹みどり宛に咲子、死亡の手紙を投函する。
8 P.079
8月6日(日)朝 さくら荘自室21号室
真子、歌をYouTubeにアップする。伴い背景づくりのために圭、襖に王羲之の漢詩を書く。
9 P.089
8月7日(月)昼休みに職場で長坂誠、咲子からの手紙を受け取った妹みどりからラインをもらう。折り返し電話をかけ、父親仁義の死亡を知り、遺骨の受け取りに向けて段取りを考える。
長坂誠、夜帰宅後に真子・圭に実父仁義の死亡と明日から遺骨を受け取りに出向くことを伝える。
10 P.107
長坂誠の回想 世紀末2000年12月 中野区の犬俣秀一宅に居候の時代。
12月13日早朝 長坂誠、元妻初美が死んだことを犬俣から告げられる。
居候をやめ、荷物をまとめて引き払う。
11 P.125
8月8日(火)長坂誠 大阪咲子の家で父の遺骨を受け取り、岡山の実家へ帰省する。妹みどりと母の住む市営住宅で一泊する。
12 P.133
長坂誠の回想 10の続き
2000年12月27日 東京から大阪の父の所有するアパートへ。
エロ・スペインなる店に就職し、まじめに勤める。
2002年6月7日長坂誠薬物所持で逮捕される。44歳
13 P.155
8月9日 父の遺骨を置いて、岡山の実家から東京へ向かう。
14 P.159
8月9日長坂誠 さくら荘21号室へ戻る。
ひとりで新宿トー横へライブに行った真子を追って、長坂誠あわててでかける。ライブ盛況、かつて世話になった顔役の鳥取山登るに出会り、トラブルとなる。
長坂誠・真子、さくら荘へ戻って、子どもたちの誕生会をする。
15 P.183
8月10日 さくら荘大家の桜木浩一、誤解をして小平警察署へ出向く。
16 P.191
8月10日
真子・圭の母親生方恵、八王子の病院で昏睡からやっと目覚める。意識はまだ戻らず。
17 P.195
8月11日山の日 早朝、勇み足により、さくら荘21号室へガサ入れ。長坂誠警察署へ連行される。
18 P.205
中国広東省東莞市
大富豪の王中毅(おうちゅうき)80歳 秀でた占い師
その孫 王水理(すいり)YouTubeから8でアップされた真子の歌を見つけ、背景にある圭が書いた王羲之の漢詩に注目する。祖父の王中毅に報告する。
王中毅、圭のすぐれた資質を見抜く。すぐに圭を保護し、書を襖ごと(アパートの建物も)買い取ることを指示する。
19 P.215
8月11日午前 警察署 誤解をうけ連行された長坂誠、取り調べを受ける。
P.223
真子・圭、小平市内の養護施設に保護される。
20 P.229
8月11日午後 長坂誠の友人で弁護士の城正邦彦が面会にくる。
YouTubeにアップした真子の歌の再生回数が増えていることを教える。
(友人の)米原が見つけてな、連絡くれたんじゃ。米原が拡散したんじゃろ。
21 P.237
8月11日 真子・圭、養護施設に泊まる。
8月12日朝 施設の所長から母親が見つかったことを知らされ、一緒に八王子の病院へ向かう。
病室では八王子署刑事たちが母の生方恵に容疑者写真を見せ、犯人ヤマモトを特定する。
22 P.243
8月12日 警察署から長坂誠、解放される。友人で弁護士の城正の車でさくら荘へ帰る。
真子から電話が入り、母が見つかったことを知らされる。
王中毅の手配により、林真一が21号室を訪れ、圭の書がある襖を400万円で買い取った。
23 P.259
8月19日 お茶の水の楽器店で長坂誠、中古ギターを買い、母親から貰った23000円で支払う。
真子から電話が入り、母が退院した知らせを受ける。
長坂誠、さくら荘に戻り、23号室で生方恵・真子・圭の3人と会う。
林真一に圭の書を売ったことを伝え、代金400万円を渡す。圭は受け取らず、みんなで分けることに。
24 P269
8月19日 23の続き
長坂誠、さくら荘21号室に戻って夕食のカレーを作る。合間に中古ギターで歌う。
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こんなもの見せられても、(まして読んでなければ余計に)なんのことやらわかるはずもありませんよね。
このメモをつくることで感じたのは、作者が事前に綿密な準備をしていたのだろうなということです。たとえばキャラクターの造型を考えたり、時間軸に沿って矛盾のないようにプロットを設定するとか、ストーリーはラストまで詰めた上で、それから執筆したのだろうなと感じました。どちらかというと、脚本づくりの手法です。あらかじめ年表まで作ってあったという井上ひさしのやり方ですね。
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ネタばらしをすると、弁護士の友人城正邦彦は亡くなった写真家久山城正ですよね。本書の装丁をしている原研哉と装画の長岡毅が米原研一ですか。
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蛇足ながら、表紙イラストにあるギターを弾く後ろ姿は勘弁してほしかったな。いかにも座布団の上にあぐらをかいているみたい。これじゃ、「四畳半フォーク」じゃないかって、だからなんだよ、と言われそう。でも、やっぱりちょっとね。
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