[NO.1644] 無限の本棚/手放す時代の蒐集論

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無限の本棚/手放す時代の蒐集論
とみさわ昭仁
アスペクト
2016年04月01日 第1版第1刷発行
239頁

著者とみさわ昭仁さんのコレクター一代記です。この人の「もの集め」は、とんでもなく極端なんだな。たとえばジッポーライターのコレクションを手放して得たお金を、そっくりそのまま今度は野球カードの収集に充ててしまったとか。野球カードといっても、日本の選手のカードなんかじゃありませんよ。アメリカ大リーグ野球の伝統ある野球カードのことです。当然のことながら、値段が段違いに高額です。どうも考えることのスケールが違います。

「第2章コレクター人生」、読みごたえがあって、途中、何度も感情移入していました。まさか心の支えだった奥様が亡くなってしまったとは......。胸が詰まります。まるで私小説ですよ。「第3章コレクターという人種」もなかなかなもの。とんでもない人たちだな。

そうしてコレクター人生の最後に行き着いた先が古本の世界というのも何だかな。ここでもまた極端です。神保町駅から徒歩1分(4分という記事もありました)。(いずれにせよ)駅近チカです。そんな地の利のいいビルの4階に古書店を構えていらっしゃったとは。ところが残念ながら、今はない。ああ、行っとけばよかった!

こちらの古書店について、まったく存じませんでした。このビルの前だって通ったことがあったはずなのに。

ぼーっと生きていたんじゃ、もったいないということにやっと気がついたところです。今ごろになって。話は違いますが、大森にある二代目の方が始めた山王書房だって、はやく行っておかないと閉まっちゃうかもしれんぞ。気がつくと、数年経っていたなんてこれまでもよくあったではないか。年寄りはしょっちゅう経験していたはずなのにですよ。

 ◆ ◆

へーえ、と思ったことのいくつか。覚え書き。

まずは、【その1】

P.100
 清涼飲料水評論家の清水りょうこさんによると、コレクターの入り口は「切手」か「鉄道」のどちらかだという。何がしかのコレクションをしている人のルーツをたどっていくと、かなりの確立で幼少期に「切手」か「鉄道」のどちらかにハマってしるというのだ。そしてこの差異は、のちにコレクターとして成長していく際に分岐して、それぞれ個別の特徴を形成していく(そのことは、一〇三ページで詳述する)。

P.103の該当箇所を要約すると、「切手」からの人の方が整理上手なのだそうです。切手経由の人は整理すること自体がコレクションの一環になるのだとも。どうなんですかねえ?

学者になった人は、子どものころ、「昆虫」か「天文」のどちらかに(興味をもって)のめりこんでいた人が多いという話を聞いたことがあります。昆虫派の代表が、たとえば福岡伸一ハカセや養老孟司センセイ。それで、天文派の方は?? そういえばだれだろう(笑)。

【その2】
福岡伸一さんによるマップラバーの話

P.184
 マップラバーとは、福岡伸一の『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー新書)に登場する言葉だ。

 人間には、地図をこよなく愛し、目的地に向かうとき必ずそれを頼りにするマップラバー(map lover)と、最初から最後までそんなものを必要とせず、自分の勘と嗅覚で目指す場所にたどり着けるマップヘイター(map hater)の二つのタイプがあると思います。たとえばデパートに入ったとき、「売場案内板」に直行するのがマップラバー。まわりの様子を一瞥して、いきなり歩き出すのがマップヘイター。マップラバーは鳥瞰的に世界を知ることを好み、起点、終点、上流、下流、そしてもちろん東西南北をなによりも大切にします。行動に移る前に、世界全体の見取り図を手にしたいのです。

えッ と思ったのは、『福岡ハカセの本棚』を読んだときに、まったく同じところが気になったからでした。

[NO.1423] 福岡ハカセの本棚 

【その3】
今回、このことがいちばん強烈でした。具体的には、なにか別のコレクション分野に新しく手をつけるときには、まずエクセルで一覧表を作成することから始めるのだそうです。なるほど、ここ数年、これが自分には抜けていたのです。なんとなく、なにかもやもやしていたのですよ。だからぱらぱら抜け落ちていっても、覚えていなかったのは、これが欠けていたことも要因でした。

この一覧の枠組み作成については、「日本一ブックオフに行く男」のところで、詳しく説明しています。とみさわさんの言い方では「チェックシート」と呼んでいます。そもそも、ゲーム開発チームにいたとき、これらのテクニックを身につけたのだといいます。

取り立てて、何かの分野をコンプリートしようなんて思わないけれど、このチェックシートの発想は使えそうです。

ブックオフ全支店リストの項目について
1,チェックボックス→行ったことがあれば■を入れるとのこと
2,管理番号→県ナンバー(01~47)+支店番号(三桁)で5桁
3,店名
4,住所
5.店舗サイズ
6.駐車場の有無
7.初訪問日と最終訪問日
8.備考
9.標高

管理番号の中の支店番号について、補足
支店番号は、各県ごとに001~199までを使用する。現在もっとも支店数の多い東京都が一〇七店で、今後いくら支店が増えても二〇〇店を越えることはないだろうから、それで十分。かわりに、200~999までは閉鎖された店舗を管理するための番号として使う。

なるほど、洗練されています。基礎データ、基本台帳というやつですね。昔、そんな種類の一覧表、記憶のどこかにあったような。ロータス123や三四郎のころからエクセルまで使ったなあ。

まずは、自分の読書録の入力から。とみさわさんはこの入力作業というのが、なによりも好きだと言ってます。

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どこかの書評で見たのは、この単行本の方ではなくて、「増殖版 (ちくま文庫)」だったはず。本書は元版の方です。それにしても出版社のアスペクトが倒産した話にはびっくり。だって、あのアスキーの子会社だったわけでしょう? 著者とみさわさんの〈X〉で読みました。さらに西和彦へのインタビュー(日経ビジネス電子版)を読むと、これがまたすごい。タイトルが「アスキー創業者、西和彦氏が破産 「ビル・ゲイツには言えなかった」」です。びっくりですよ。元マイクロソフト副社長の西和彦さんですもの。

そんな紆余曲折はまた別の話ですね。

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それにしても、本書ご購入の方には、もれなく電子版をプレゼントしております。というのは、すごいな。PDF版もダウンロードできるとあります。今は、できないみたいですが。