[NO.1633] 探究型読書

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探究型読書
編集工学研究所 著
クロスメディア・パブリッシング 発行
インプレス 発売
2020年08月11日 初版発行
191頁

「帯」から
著者の思考モデルを借り、短時間で高速に情報編集する。全く新しい読書法。

具体的にイメージしにくい「探究型読書」。WEB版 私立中高進学通信 に紹介がありました。リンク、こちら 

『探究型読書』プログラムの流れ
[step 1]
「図書館の本」から1冊選び、本の表紙と目次だけを見て内容を想像。必要な情報を書き出す「要約読み」を行う。
[step 2]
選んだ本を紹介する「帯」を作る。
[step 3]
選んだ本をほかの生徒が選んだ本と合わせて「みんなの3冊棚」を企画。「人間が生きるために大切なこと」など関連するテーマを見つけ、キャッチコピーをつけて紹介する。
[step 4]
選んだ本に新たな本2冊を加えて、自分の関心テーマを伝える「私の3冊棚」を企画。
[step 5]
自分が作りたい新書「エア新書」を企画し、内容を考える。

第五章で「かえつ有明中・高等学校 副教頭」先生の言葉に、「3冊棚」の説明があります。本を3冊選んで、何かしら自分の関心あるテーマを組み立てる。 3冊の本で作るコラージュみたい? たった3冊の本を選ぶという、お手軽な作業ながら、内容は深い。小学1年生の3冊と高校3年生の3冊とでは、選んだ本に大きな違いがあるでしょう。

P.100
(このプログラムで)の面白さは、最後に想像上の新書企画を立ち上げることです。自分が新書を企画するとしたら、どんなテーマで、どんな目次で、どんなことを書きたいかを考えてもらうというわけです。授業の終わりには、グループ内で発表する時間を設けています。このプログラムは基本的には1学期間、合計7回で終わります。
企業の研修よりもハードかもしれません。

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読みはじめてからしばらく経って、著者名を確認してしまいました。編集工学研究所って、「あの」松岡正剛さんのやっている組織の編集工学研究所だよなあ。奥付の上部、著者略歴には編集工学研究所の説明の下に3人の名前と略歴がありましたが、いくらページをめくっても、どこにも松岡正剛さんの名前は出てきません。(P.186に一ヵ所だけありました。)

そうか、そうか。現在は松岡正剛さんの手を離れて、組織が運用されているのだろう、と納得しました。これなら将来松岡さんになにかあったとしても、組織は存続していくのだろう、などと呑気に思ったりもして。

 ◆ ◆

今ごろになって気づきました。すでに松岡正剛さんが亡くなっていたなんて。それも8月12日だったというのですから、うっかりにもほどが。世情に疎くなるばかり。こりゃ、まずい。

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内容、構成ともに松岡さんのこれまでに出した本とは違います。たとえば、P.056 「探究型読書ノート」のご案内 なんて、らしくない典型では? リンク、こちら とりあえず、リンク先を削除しましたが、こちら(リクルート進学総研)のサイトのPDF記事から、QRコードが読み取れました。ページのいちばん下の方です。 リンク、こちら 

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QRコードまでついています。「探究型読書ノート」を自分でネット上からダウンロードして、書きこみながら実践するようになっているのです。図版が掲載されていますが、縮小されていて文字が読めません。資料ということでしょうか。それと別に、P.085〈章末付録〉探究型読書「書きこみ」ノート なるものが7ページ。

本書は自分で実際に試してもらいたいという思いが強く感じられます。

「本」をツールとして、「学校」では教育活動の一環としてとりあげています。企業では研修。具体例として「株式会社ポーラ 執行役員・人事戦略部長」「かえつ有明中・高等学校 副教頭」「IMD北東アジア代表」のお話が第五章にあります。

本はのんびり寝転がった姿勢で読み、ときにはそのまま寝落ちすること(「ぱさっ」と本が落ちる音がかすかに聞こえたときの、たまらない至福の感覚!)が日常である私にとって、これはとても異質な考え方です。どちらかといえば、いままで読むことがなかった傾向の本です。

自己啓発書が大嫌いだっただけに、もともと本書を読みとおす気はほとんどありませんでした。

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本書のなかで紹介していたのが、この「科学道100冊」。リンク、こちら 

理化学研究所・編集工学研究所共同プロジェクト「科学道100冊」。書籍を通じて科学者の生き方・考え方、科学のおもしろさ・素晴らしさを届ける事業です。2017年度から開始し、2019年からはシリーズとして毎年各テーマに合った100冊を選書しています。

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【重箱の隅つつくの助】

第五章 探究型読書を巡る3つの対話から

P.113
編工研:ところで、ポーラさんは非常に優秀な方々が多い会社さんという印象があります。人事担当役員として、今のポーラさんにどんな課題をお持ちですか?

P.119
編工研:ポーラさんは、コミュニケーション能力が高い優秀な人たちがたくさんいらっしゃる会社さんだなという印象があります。

いやはや、参りました。本当に使っているのですね。「さん」の多用。ここを読んで、違和感を抱かないのでしょうか? 感じないからこそ、この表記なのでしょうが。私なら、馬鹿にされているとしか思えないのですが。そしてあくまでも、「~という印象」なのです。せめて「印象」ではなく、「認識」くらいにして欲しかったな。

書籍化の際には、「編集」の側で、手を入れるでしょうに。校正もスルーですか。いったい「編集」ってなんでしょう?

たまたま、昨晩、読み返していたのが『カネ積まれても使いたくない日本語』(内館牧子、朝日新書413)の次のところでした。

第二章 過剰なへり下り
2. へんな敬語
(1)さん、様

P.48
 バス旅行で事故が起きた時、テレビでコメントした大学教授は「旅行会社さん」「バス会社さん」を連発。
 原発を今後どうするかということに関しては、電力会社幹部が「自治体さんとも相談の上......」と答え、担当社員は「他社さん」「他電力さん」という言葉を繰り返した。

 驚いたのは、ある薬局でのこと。私が入って行くと、女性薬剤師が20代らしき客に、
「一度、病院さんで診てもらった方がいいと思います」
 と言った。客は、
「病院には行ってるんです」
 と答えると
「大きな病院さんですか?」
 と聞く。若い客は「病院」と言うのだが、薬剤師は最後まで「病院さん」と言い続けた。

この『カネ積まれても使いたくない日本語』が出版されたのが、2013年。いまや定着されたということでしょうか。いや、それでもヘンじゃないか? 社内では、こんな日本語が飛び交っているのか? あの松岡正剛さんのところだよ?