●小説新潮/2024年5月号/第78巻 通巻960号 R-18文学賞受賞(歴代受賞者競作) やすらぎハムエッグ/宮島未奈 |
〈成瀬〉シリーズ最新作が掲載されています。
今回の主人公は坪井さくらさん。神奈川県で高3までを過ごし、京大理学部へ進学しました。(大島智子さんの描く成瀬直伝ハムエッグ丼を頬張る彼女の絵柄は、ざしきわらしさん装画の輪郭がくっきりした成瀬あかりに比べ新鮮です。ただし壁画には不向きですが。)
時期は坪井さんが京都で部屋探しをするところからはじまって、新学期の授業が落ち着くまで。おそらく五月連休前でしょう。ところどころ主人公坪井さんの回想がはさまれます。
成瀬あかり史の位置づけでは、「成瀬慶彦の憂鬱」と「やめたいクレーマー」の間。
どうやら〈成瀬〉シリーズは、この作品あたりでいったんお休みみたいです。読者からの熱い要望と地域経済界(?)からの要請があれば、わかりませんが。大津市への経済効果は、いかほどでしょう?
自信を持てない主人公が、成瀬の影響で前向きに変わるというテーマは、もうこれ以上はいいかな。
短篇「コンビーフはうまい」の別バージョンといえそう。
◆ ◆
主人公と成瀬の出会いは、入学式の直前、道で坪井さくらが転倒したところへ成瀬が声をかけるところから。救いの神みたいです。
ここから例によって人生に後ろ向きの主人公が、成瀬と接するうちに変容していきます。まるで生きた触媒、天然の心療内科医成瀬あかり。
作品の最後の場面で、ふたりは鴨川デルタに行きホタルを見ます。そこでもらした成瀬の言葉が「今日はわたしの誕生日なんだ」。
どうやら成瀬あかりさんは4月生まれのようです。
「わたしはこれから四年かけて京都を極めたいと思っている。よかったら坪井も一緒にどうだ」
「京都を極めるって?」
「それはこれから考える」
「わかった。成瀬についていく」
「よろしく頼む」
地の文を省くと、こりゃまるでショートコントかラジオドラマだね。
「月様、雨が」
「春雨じゃ、濡れて参ろう」
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