[NO.1612] 千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話

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千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話
済東鉄腸
左右社
2023年02月10日 第1刷発行
2023年03月20日 第2刷発行
253頁

以前、いくつかの書評で取り上げられ、話題になりました。あおった書名からもわかるように、かなりキャッチーなつくりです。出だしから1/3くらいまでに、たしかにその書名のとおりの内容が紹介されます。気づくと、あれまあれまといううちに(著者は)ルーマニア語の小説家になっていました。残りの内容は翻訳についての考察や言語のもつイデオロギーの役割などに移っていきます。差別、ジェンダーについてなどなど。

ちなみにルーマニア語の名詞には男性・中性・女性形が存在し、さらに形容詞もこの性別に応じて形が変わる、ジェンダーででガチガチに固められている言語だといいます。そこからこんな記述につながることにも。

P155
 こんなんだからノンバイナリーといった性的に多様な価値観への反感も根強いんだ。

著者のネット活用方や辞書の考察など、興味深く読みました。

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本当なの? と思える「キャッチーな書名」について。微妙にはぐらかされる著者の学歴が気になりました。学歴でなければ、学力でしょうか。おいそれとは、独学で「ルーマニア語の小説家にな」れはしないですよ。(しつこいけど)親御さんや兄弟の履歴なんてのも気になりました。家庭環境とでもいうのか。

たしかにルーマニア語を習得する過程は具体的に説明されています。でもねえ。語学の勉強にアレルギー反応しかなかった身としては、疑わしく思えてきます。

おもわず笑ってしまったところ(著者は毎日二~三冊は本を読むとした上で)

P177
その過程であまりに本読んでるのに記録しないのは惜しいから、五月から読書ノートをつけ始めたんだが、約一年でノートは十二冊目に入ったよ。読んだ本はマジで1000冊越(ママ)えだ。本当かどうか疑うだろうけど全ての感想を半ページ分記しているから、証拠は簡単に見せられるよ。

芸能人のためにゴーストライターが書いたのかと思ってしまいます。こんなつくりにしなくてもいいのに、と思ってしまいます。ウケを狙って無理しているような気がして、たまらなくなりました。「証拠は簡単に見せられるよ」だなんて、そんなにむきにならなくてもいいのに。疑いやしません。

日本の学生(の多く?)が、あまりにも本を読まないだけであって、そもそもどこの国の学生でも、毎週レポートの提出に追われている授業に出ていれば、その課題レポートを書くためには毎回何冊もの本を読まなくてはならないだろうし、それが週になんコマもあるとすれば、延べで読む本の冊数はとんでもない数にたっするはずです。

ただし、レポートを書くために読まざるを得ない本は、扉からあとがきまで精読する必要はないだろうから、著者のここでいう読書とは違うでしょう。

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巻末、「来たるべきルーマニアックのための巻末資料」のルーマニア関連本・映画・音楽の紹介が面白し。

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【目次】
0 はじめに 005
1  引きこもりの映画狂、ルーマニアに出会う 011
2 ルーマニア語学習は荊の道 033
3 ルーマニアの人がやってきた! 063
4 ルーマニア文壇に躍り出る 083
5 師匠は高校生、そして九十代の翻訳家 114
6 日系ルーマニア語は俺がつくる 137
7 偉大なるルーマニア文学 173
8 俺は俺として、ひたすら東へ 197
9 おわりに 226

来たるべきルーマニアックのための巻末資料 254
・ルーマニアックの本棚 253
・ルーマニアックシアター 245
・ルーマニアックのプレイリスト 237