本の雑誌2023年10月 アジフライ着陸号 No.484 特集:この人の本の紹介が好き!

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本の雑誌2023年10月
No.484
アジフライ着陸号
特集:この人の本の紹介が好き!

P12
〈特集〉
この人の本の紹介が好き!
●SNS本の紹介者座談会
台本のほうが大変だ!?
=けんご・梨ちゃん・渡辺祐真(スケザネ)

SNSとは......


P18
アマゾンレビューから追い出されて
◎小谷野敦

『小谷野敦のカスタマーレビュー』
『レビュー大全 2012-2022: 作家・比較文学者Kが四〇〇〇日にわたって記した壮大なる記録』

P20
#読書好きな人と繋がりたい
=@osenti_keizo_lovinson

実際にインスタで開いてみました。なるほと。


 ◆  ◆

P46
生きて未来を記憶する散歩文学の新たな名作!
石川美南
新刊めったくたガイド

 散歩文学という一大ジャンルがある。今ぱっと思いつくだけでも、W・G・ゼーバルト『土星の環』に多和田葉子『百年の散歩』、最近話題になった高原英理『詩歌探偵フラヌール』やハン・ジョンウォン『詩と散策』、歩くこと自体について思索したレベッカ・ソルニット『ウォークス 歩くことの精神史』など......。散文学の魅力は、実際に歩く描写があるだけでなく、語りも一直線ではなく、曲がり道や枝分かれする道をさまよい歩いていくようなところにある。(以下略)

 ◆  ◆

P122
書籍化までβ光年
数学者たちの個性ある黒板
円城塔

『数学者たちの黒板』
ジェシカ・ワイン
徳田功訳
草思社
装丁・神清涼太


 あちこちで同じことをボヤき続けて長いのだけれど、「てきとうな数式」や「謎の数式」というものはない。かろうじて「変な数式」というものはありうる。一見変に見えたとしても、背後に筋は通っているはずなのだ。
 間違っている数式はよくある。
 基本的に数式は声に出して読むことができるくらいには文章である。ちゃんと最後にはカンマだとかピリオドを打つ決まりなっている。何かを表現したいがためにその記法を編み出したのであって、そして「数式で書いた方が簡単になるので」数式で書いているのである。
 嫌がらせでやっているわけではない。
そういう意味では数式は誰かの、何かを表現したいという意思のこもったものであるので、それが奇天烈だったり間違っていたりしたとしても、てきとうってことはないのだ。
 てきとうだったら落書きである。
 本書は、数学者の書いた黒板の写真を集めている。見開きの左頁にその黒板を書いた数学者のエッセイが、右頁に黒板の写真が載っている。全部で一〇九人の数学者が登場する。
 黒板には個性がある。文字もそうだし、図も様々だ。色チョークの使い方もそれぞれ違う。どの黒板を選び、どんなエッセイを書くかも興味深い。ある日の議論の残る黒板があり、自分の発見について説明した黒板があり、取り組んでいる問題をめぐる議論の見取り図があり、モットーの書かれた黒板があり、ただ消された黒板がある。
 読み取れる黒板があり、何が書いてあるのかさっぱりな黒板がある。
 でもこれらの黒板を見ていると、その背後にはきっとなにかの筋道があるのだろうという印象が強く押し寄せてくる。
 落書きではない。
 こういう落書きができるのならば、それはそれで天才だろうという感想が湧く。
 ある種の美しさがある。殴り書きでも、黒板の中でのバランスが目茶苦茶でも、そこには何かの美しさがある。ここのところはちょっと見栄えが悪いのでこうしてみてはどうですか、と口出しできない何かがある。威厳をそなえる。
 文字や文は人を表すといい、絵にも個性は顕著である。それは数式においても同様であり、いやより強いものなのではないかと個人的には思う。そこにはなにか理解可能なものがあり、一緒に話をしようと誘う。


書き写していて、気持ちがよかったページです。最後の読点が左隅にぴたりと収まっています。まるでレイアウトも、それをねらっていたみたいに、きれいに感じられます。

紹介書についてまとめたところ、「本書は、数学者の書いた」~「何が書いてあるのかさっぱりな黒板がある。」まで。自分でもやろうとして、できなかっただけに、何度も読み返しました。