映像の世紀バタフライエフェクト 選「砂漠の英雄と百年の悲劇」

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NHK 2023年10月16日22:00
映像の世紀バタフライエフェクト 選「砂漠の英雄と百年の悲劇」初回放送日:2022年6月20日

ある個人ブログに、イギリスによる三枚舌外交について触れた投稿記事がありました。投稿者は高校生のころ、イギリスが交わした二つの密約について、理解が出来なかったのだそうです。あの大英帝国が、そんな卑怯なことをするはずがない! と思い込んでいたので、映画『アラビアのロレンス』を3回も見て、やっとわかったのだとありました。以下、引用させていただきます。

ブログ 映画ごときで人生は変わらない

このあたり(いわゆる「イギリスの三枚舌外交」について 筆者注)世界史で学びましたけど、まさか天下の大英帝国がそんな卑怯な真似するわけないと思い込んでいたせいかよく理解できず、「アラビアのロレンス」も3回ほど観てやっとわかりました。ひどいですねイギリス。民間人がやったら詐欺罪でぶち込まれますよ。今に至るパレスチナ問題の一因を作ったわけですから...。

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よくわかります。私なんぞ、ずっと意味がわかりませんでした。年を重ねてから、次のような言い回しが、目に入るようになったものです。それまでは、目にしていても、意識に入ってこなかったのです。

大使とは、自国の利益のため、外国で嘘をつくために派遣される誠実な人間をいう。ヘンリー・ウォットン(1568-1639)

どこの国でも自分の国の非をかくすのが当然であり健康である。故に健康とはイヤなものである。山本夏彦 (1915-2002)


このところ、TVのワイドショーなどでも、さかんにイスラエルとパレスチナの対立について取り上げています。ところが、歴史的なきっかけは第二次大戦後の「国連」にあるとする内容がほとんどでした。

そんななか、NHKが『映像の世紀バタフライエフェクト 選「砂漠の英雄と百年の悲劇」』を再放送しました。昨年6月に初回放送した内容です。

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以下、番組の冒頭部分のナレーションの言葉です。

古来パレスチナは、アラブ人とユダヤ人が共存して暮らす場所だった。そこに対立の火種を持ち込んだのは、イギリスだった。両民族に独立国家建設を約束したのだ。イギリスの情報将校ロレンスは、第一次世界大戦中にオスマン帝国に潜入、アラブ民族独立をあおり、オスマン帝国打倒をもちかけた。しかし一方でイギリスはユダヤ人にも同じ約束をしていた。百年前のひとりの英雄の裏切りから始まる、憎しみの連鎖の物語である。

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この映像は、謎につつまれた覆面アーティストバンクシーの姿をとらえた貴重な映像である。

平和への願いと暴力の支配への批判が込められた絵。描かれたのは中東パレスチナ。イスラエルが建設した分離壁である。全長700キロにも及ぶ強大な壁は、二つの民族の分断を象徴している。アラブ人とユダヤ人。報復が報復を呼び、今も命が失われ続けている。

その始まりは百年前の第一次世界大戦。国家の密命を帯びた一人のイギリス人将校の裏切りがきっかけだった。トーマス・エドワード・ロレンス。後に映画化された砂漠の英雄、アラビアのロレンスである。

多くの民族が身を寄せ合って暮らしていたこの地で、イギリスが焚きつけたのは、独立国家建設の夢。アラブ人とユダヤ人、双方と密約を交わし、あなたたちの国作りを支援すると保証した。イギリスのこの欺瞞に満ちた密約が現在まで続く対立の火種となった。

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アラブ人を欺いてきた私は名誉となることは何一つしていないと思う。多くの人間を火中に投じて最悪の死に至らしめることになったのだ。

私たちはなぜこんな世界に住んでいるのか。歴史の連鎖をたどる映像の世紀バタフライエフェクト。今回は一人の英雄の裏切りから始まる憎しみの連鎖の物語である。

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「イギリスのこの欺瞞に満ちた密約」について、同じく『アラビアのロレンス』とからめて取り上げていたのが、松岡正剛・千夜千冊「1160夜 『知恵の七柱』 トマス・エドワード・ロレンス」でした。どちらかといえば、ロレンスという人物像についての方が松岡正剛さんらしかったですが。

 砂漠の反乱に賭けた勇気や忍耐を称えるならまだしも、また、ゲリラ戦略の創案力や砂漠の民を操作する統率力を評価するのならまだしも、一方ではクロポトキンやチェ・ゲバラに通じる革命家としての不屈の情熱を宿し、他方ではヴェリエ・ド・リラダンに顕著なような誇大妄想癖とオスカー・ワイルドにつらなるような倒錯的な美意識をもった男が、五人ではなく、たった一人の男としてわれわれの前にいるわけなのだ。

「五人ではなく、たった一人の男としてわれわれの前にいる」という才能の持ち主であるローレンス。クロポトキン、チェ・ゲバラ、ヴェリエ・ド・リラダン、オスカー・ワイルドをここで挙げるのが松岡流です。


人物像はさておき、第2次世界大戦までのイギリス外交について。

 もともとイギリスはつねにインドへの道を重視している国である。東インド会社の設立以来、その方針は変わっていない。そのためには「ジブラルタル海峡-マルタ島-キプロス島-スエズ運河-アデン」という線をたえず抑えておく必要があった。ロレンスは最後まで苦々しく思っていたようだが、これがイギリス帝国の第一の生命線だった。第一次世界大戦前夜、この生命線をドイツとオーストリアが脅かしつつあった。

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NHKの放送は、最後にまたバンクシーに戻ります。

2002年イスラエルはアラブ人居住区との境界に巨大な壁の建設を始めた。高さ8メートル、全長700キロ。この百年、対立を繰り返してきたユダヤ人とアラブ人を分かつ分離壁である。

2005年、その分離壁に一人のアーティストがよじ登った。イスラエル兵が監視するなか、用意してきた型紙を使ってすばやく作品を作っていく。覆面のアーティスト、バンクシーである。

ときに銃口を向けられながら、今も度々訪れ、作品を描き続けている。

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