[NO.1601] 銀河帝国の興亡1 風雲編/創元SF文庫

foundation1_a.jpg foundation1_b.jpg

銀河帝国の興亡1 風雲編/創元SF文庫
アイザック・アシモフ
鍛治靖子
東京創元社
2021年08月31日 初版
379頁

もともと半世紀以上も前の愛読書でした。今でも当時の読書仲間と本書について話し出すと止まらなくなります。E・E・スミスの次に熱中したのがこのシリーズでした。その後、今世紀に入る手前あたりでそれら3冊は処分した記憶があります。いざ処分するにあたって、この3部作であれば、絶版になることもないだろう、かならずや将来でも入手可能だろうと予想したことを覚えています。

ところが、その後、みごとに絶版となりました。ネットで第一巻の古本価格を見て驚きました。サンリオSF文庫ほどではありませんが。それがこうして新訳で読めるようになっていたとは。

そしてなによりも自分の視力が衰えたことに驚いています。黄ばんだページに並ぶミジンコのような小さな活字は、とてもじゃないけれど、長時間の読書に耐えられません。

こんなことになるなんて、まったく予想外のことでした。オレだけは大丈夫だと、高をくくっていたところがありました。とんだセルダン危機です。

さて、新訳の本書について。正直、おっかなびっくり読んでみたのでしたが、なんのことはなく、すんなり最後まで読めてしまいました。子どものころに読んだ版の印象は、強烈に脳内に刻み込まれていることでしょうが、これなら2巻目以降も安心して読めそうです。

なにしろハヤカワ版の評判がよくなく、困っていました。実は何年か前、自分でもそちらに手を出して、がっかりしたことがありました。

 ◆ ◆

巻末の牧眞司さんによる解説が秀逸です。だらだらした(こちらの)駄文とはまるで対極に位置します。精選された内容が簡潔に記されています。文章はすっきり明晰です。

P365
(解説)
時代を超えてSF読者の支持を集める《銀が帝国の興亡》三部作の開幕編  牧眞司

本書収録分、単行本と初出との書誌データが掲載されています。

P376
●『銀河帝国の興亡1』(単行本刊行一九五一年)
第一部「心理歴史学者(サイコヒストリアン)」"The Psychohistorians"
   (単行本化の際に書き下ろし)
第二部「百科事典編纂者(エンサイクロペディスト)」"The Encyclopedists"
   (初出〈ASF〉一九四二年五月号、「ファウンデーション」"Foundation")
第三部「市長(メイアー)」"The Mayors"
   (初出〈ASF〉一九四二年六月号、「頭絡と鞍」"Bridle and Saddle")
第四部「貿易商(トレイダー)」"The Traders"
   (初出〈ASF〉一九四四年十月号、「くさび」"The Wedge")
第五部「豪商(マーチャント・プリンス)」"The Merchant Princes"
   (初出〈ASF〉一九四四年八月号、「巨人と小人」"The Big snd the Little")

 ◆ ◆

【重箱の隅つつくの助】

P318
 マロウは技術官の家はささやかな二階屋で、市の中心部をしめる窓のない巨大な立方体の建造物のそばに立っていた。技術官の家から地下道を抜けていくと、そこは静かでオゾン週の漂う発電所内部だ。

 マロウは十五分のあいだ無言で、案内されるまま技術官について歩いた。(以下略)

人名の「マロウは」が二カ所でてきます。ところが、そのうちの1回目がおかしいのです。どう考えても、主語が混乱しています。それで、思い切って出だしの「マロウは」を削除したらどうでしょうか? するとこの一文の主語は、「(技術官の)家は」となって、すんなり文意がとらえられます。

どうしてこんなおかしなことになっていまったのか、考えてみました。すると目に付いたのが二番目に出てくる「マロウは」です。こっちの「マロウは」は、違和感ありません。主語そのものです。

そこで、ふと思いついたのが、次です。

二番目の「マロウは」の部分が、たまたま間違えて貼り付けられてしまったのではないでしょうか。もちろん一番目の「マロウは」の位置にです。うっかりコピペしてしまったのではないでしょうか。キーストロークの浅いノートPC付属のキーボードでは、そんなことがありそうです。

いずれにせよ、校正係は気にしなかったのか疑問が残ります。

ついでに記憶の底からよみがえったのが、その次のページにあった内容でした。

P320
 そしてさらに二日後、技術官のシールドが動かなくなり、どれほど頭を悩ませても悪態をついても、二度と光をとりもどすことはなかった。

もちろん以前に読んだ版とは訳者が違いますから、正確には表現が異なっていたでしょうが、ここのところは妙に覚えていました。びっくりです。