本の雑誌2023年1月号 初詣大ジャンプ号 No.475 特集=本の雑誌が選ぶ2022年度ベスト10

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本の雑誌 2023年1月号
初詣大ジャンプ号  No.475
特集=本の雑誌が選ぶ2022年度ベスト10

特集=本の雑誌が選ぶ2022年度ベスト10
本の雑誌が選ぶベスト1はこれだ!
31人の「私のベスト3」で2022年を総まくりだあ

本棚が見たい! 1月の書斎は書物蔵さんでした。久々に落ち着いたよさを感じました。ここしばらく続いた訪問先が嫌だったというのとは違います。なんだかきれいでスタイリッシュな書架を見て、違和感を覚えたりしていました。今回の書物蔵さんの書斎(書架)は、もちろんこちらの手が出せる範囲をはるかに超えた蔵書量だし、費やしたエネルギーはとんでもなく高いことが見て取れますが、なぜかそこに親和性を感じました。たとえば床に置かれた本の乱れ具合とか。

特集トップに配置された、社員さんたちによる〈本の雑誌が選ぶ2022年度ベスト10〉に、あまりぴんときませんでした。つまり、それだけ新刊書についての熱量&知識が乏しかったということでしょう。これまでの読書生活のなかで、自分でもいちばんびっくりしたことでした。

ですから、つづく「読者が選んだベスト1」やジャンルごとのベスト表にも、なんだか興味がわきません。あらあら。

31人の「私のベスト3」に目をとおすと、北村薫先生のものがトップに掲載されていました。ところが大好きだった北村薫さんの紹介する3作品ともに、やはりこちらの興味がわいてきません。こんなことは、これまでなかったことです。今までは3作品のどれにも、わくわくして紹介した文章を読んだものです。いったいどうしたというのでしょうか。

紀田順一郎さんの名前を見つけたところで、ほっとしました。お元気なのでしょうか。蔵書を処分したときのことを思い出します。つづいて嵐山光三郎さんや風間賢二さんの懐かしい名前を見つけ、ほっとしました。ただしベスト3にはひかれません。嵐山さんや風間さんと同世代の方々が、最近、つぎつぎとお亡くなりになり、なんともいえない気分になってきます。大手出版社の文芸誌で、これと似たような気分を味わったのは昭和の終わりころのことだったでしょうか。第三の新人が亡くなりだしたのはその後だったか。

◆そんななかでも、興味をひかれた本◆

P87
春日武彦

② 『いずれはすべて海の中に』サラ・ピンスカー(市田泉訳/竹書房文庫)
③ 『画文でわかる モダニズム建築とは何か』藤森照信、宮沢洋(彰国社)

 短編集である②は、奇想系ないしはSFに分類されるのだろうか。孤独感や切なさが通奏低音として響いており、しみじみとした読後感に囚われる。個人的には、電動式の義手が長さ九十七キロのハイウェイそのものになった感覚を獲得してしまう「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」が好き。
 以前からアール・ヌーヴォーや未来派、バウハウスなどの相互関係が判然としなかったのだが、③で氷解! ああそうだったのかと腑に落ちる快感を提供してくれた。

2022年度ノンフィクションベスト10
=栗下直也

① 『統合失調症の一族』ロバート・コルカー著 柴田裕之訳/早川書房

騙されたと思って、プロローグだけでも読んで欲しい。驚きの連続でページを捲るのが止まらなくなる。(以下略)

P144
書籍化までβ光年
音をプログラミングする
円城塔

『Pythonではじめる 音のプログラミング コンピュータ ミュージックの信号処理』
青木直史/オーム社
装丁・トップスタジオデザイン室(轟亜希子)


本文中に紹介
『憂鬱と官能を教えた学校』
菊地成孔・大谷能生(河出文庫)


 自分の指でキーボードを押さえることは無理である。一音一音打ち込みをしたいわけでもない。和音を規則的に組み合わせて聞いてみたいというくらいの話であって、プログラミングでなんとかするべき場面なのだが、実際問題、色々遠い。
 振動数と振幅から和音や音色あたりを考えたいときどうするかという問いの前に長年立ち尽くしてきたのだが、ようやく本書でなんとかなるかなという気持ちがしてきた。
 Pythonを使って、正弦波をwaveファイルに書き出し、再生する。正弦波から音色をつくる。
 たったそれだけのことなのだが、手引きがなければ迷宮に迷い込むか、誰かの言いなりになる羽目となる。
 音の基本的な性質にはじまり、様々な楽器の音を積み上げていく本書は、シンセサイザー作成の手引きともなっている。
 自分にとってのプログラミングのイメージはどうもこのあたりにあって、なかなかぴったり、という本には巡り会わない。