[NO.1583] 東京水路をゆく/櫓付きボートから見上げるTOKYO風景

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東京水路をゆく/櫓付きボートから見上げるTOKYO風景
石坂善久
東洋経済新報社
2010年10月28日 発行
243頁
再読

普通なら、橋を渡る際にちょっとのぞき込むくらいの目立たない存在となってしまった東京の川。しかしそこは、かつて物流の主役であり、道路以上に重要なインフラだった。都内全ての河川と運河を走った一道楽船頭の「モーターボートによる街歩き」。  「BOOK」データベースから

東京とその近郊の水路を筆者は自分のボートでめぐります。江戸時代以来、舟運のために発達した水路は、今でもまだ残っているところがあります。もっとも、刊行は10年以上も前ですが。船が走れる水路のことを「可航水路」と呼ぶそうです(P.4)。筆者の楽しそうなボート遊びが、うらやましくてしかたありません。

ちょっと困ったのが、自艇の写真が見当たらないこと。モーターボートと呼んでいて、動力で動きます。本書のサブタイトルに「櫓付きボート」とあるのは、着脱式の「櫓」をオーダーしたとありました。屋根のないオープン艇ともあります。推進が1メートルを切るような浅い水路にも、ゆっくり入っていけます。

何年か前から、日本橋川や神田川のお茶の水近辺を小型の船で探訪する街歩きのテレビ番組が増えてきました。(観光で一般客が乗れるようになったところで、コロナ禍になってしまいました。)それを個人の持ち船で実行しているのが本書の著者なのです。

小型とはいえ、持ち船ですから、好きなように動けます。遠くは埼玉県吉川市まで出かけた様子が紹介されていました。中川をずっとさかのぼって、「吉川橋」や「新方川との合流部付近」の写真がP100に掲載されていました。もちろん、船上から撮影されたものです。JR武蔵野線よりもずっと北のあたり。いやはやびっくりです。河口から何キロなのでしょうか。

荒川では秋ヶ瀬橋下流まで、34.5キロもさかのぼれるのだそうです。さきほど、google map でおおまかに測ってみると、上記の中川の場所までの距離もほぼ同じくらいでした。

最後の方のページで紹介されている京浜地区の水路探索が、(中川や荒川よりも)いちばん面白いようです。支流が多く、複雑です。もっとも、読者は実際に船に乗れるわけではありませんが。

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「東京」では閘門を個人で利用することができると知って、これにも驚きました。大阪ではダメのようです。

P.32「(路)閘門通過は水路航行の一大イベント」によれば、旧江戸川の流頭部にある江戸川閘門、荒川と旧中川の間にある荒川ロックゲート、小名木川の中間部に設けられた扇橋閘門の3つの閘門は、著者の船で通航できる、とあります。そして、「予約などは必要でなく、艇で近づけば、運転時間中は自由に通ることができること。」なんだそうです。個人のレジャーで通過する小型のボートのために、わざわざ大量の水を出し入れしてくれるのです。水位の異なる場所に、わざわざ「船の階段」をつくって、エレベーターのような巨大な施設をつくったのが、閘門です。

Amazonプライム・ビデオ 「ソロ活女子のススメ【テレビ東京オンデマンド】」シーズン2 エピソード8(第8話)「ソロ東京カヤック」を見ていると、「扇橋閘門」が出てきました。主人公 江口のりこさんが、単独でカヤックを漕いで利用しています。巨大な施設が、たった一艘の小さなカヤックのために稼働している姿は圧巻でした。そして番組内でも、この施設が無料だと言っていました。すごいことです。

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本書で、おやっと思ったことに「通運丸」があります。

P.56 「(路)憧れの川蒸気船の雄姿」によれば、著者が「川走り」を始めるきっかけとなったのが、「東京を発して江戸川・利根川筋を走り、長駆佐原や銚子まで結んだ、川蒸気船に関心を持ったことから」だとあります。この川蒸気船のなかでも、とくに有名なのが「通運丸」です。

10年以上まえになりますが、この通運丸に興味をもって、調べたことがありました。古書も集めましたし、東京都港区の「物流博物館」にも行きました。(色刷りの通運丸の錦絵が入った名刺までいただいた)職員のかたが、じつに親切でした。このときにもらった資料は宝物です。

その後、関宿から銚子まで、何度もでかけました。復刻版『利根川図誌』や学会誌までそろえました。文学作品では、田山花袋の随筆に出てくる蒸気船の様子が格別でした。ふいに、本書に川蒸気船が出てきて、驚きました。これもひとつの御縁でしょうか。

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P.51 「なぜ、可航河川に"萌える"のか?」に、著者が『タモリ倶楽部』に出演した、と紹介されていました。

2010(平成22)年4月、神田川の分水路を取り上げたテレビ番組『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系列)に、解説者として呼んでいただいた際、テロップで"川の探検家"なる肩書が流れたときは、......

この回の放送は見た記憶があります。トンネルのような「水道橋分水路か、お茶の水分水路」のどちらかに船で入っっていった場面があったような気がします。録画も、あったのではないでしょうか。

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本書、奥付の著者紹介にブログのURLが載っていました。

http://suiro.blog27.fc2.com/ 

さっそく、開いてみました。

初めての初日の出...5 リンク、こちら 
「水路をゆく・第二運河 ―水運趣味を愉しむ―」現在も更新されていて、うれしくなりました。