[NO.1577] ニッポン旅みやげ

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ニッポン旅みやげ
池内紀
青土社
2015年03月29日 第1刷印刷
2015年04月10日 第1刷発行
162頁

(国内の)旅先で出くわしたヘンなものについての記録(?)をメインにした紀行文なのですが、なにぶん面白い文章の書き手としては格別の手練れです。どれもが面白く読ませてくれるものばかり。

ヘンなものについて、というところが、赤瀬川原平さんのトマソンみたいなものを想像しましたが、あっちほどの執着はありませんでした。それよりももっと、ふらふらすることのウェイトが置かれているみたいです。

すいすい読めるエッセイなので、初出はてっきり週刊誌に連載されたシリーズかと思ったところが、違いました。

P162
友人石井紀男の主催する文源庫のWEBに五十回にわたり連載、そこから四十篇を選んでいる。

のだそうです。探してみました。リンク、こちら こういうサイトは、これからも閉鎖しないでおいてほしいものです。

WEB版では全部の回にカラー写真が添えられています。本書では間引きされ、写真の出ている回のほうが少なくくらいでした。しかもこちらは印刷の白黒版だし。おやっと思ったのは、この写真、池内さんが自分で撮影したものだと記述があります。WEB版の数多くの写真を順番に眺めていくと、ちょっとピントが甘かったり、画角が少し傾いていたりと、なかなか「味」があります。

ちなみに『ニッポンの山里』(山と渓谷社・2013年)、『ニッポン周遊記』(青土社・2014年)につづとありました。旅シリーズ、読んでみたいところです。

 ◆  ◆

10年くらい前の旅番組で、仲良しの嵐山光三郎さんが池内さんの旅について評していました。番組は隠れ家のような宿といったテーマでした。

番組のなかで池内さんが言っていたことを、うろ覚えで書いてみます。宿の条件としてあげていたのが、こじんまりとした宿でした。できれば家族経営くらいがちょうどいいとも。くれぐれも雑誌などでとり上げられてなどいないことも。

池内さんには、そんな秘密の宿が全国に何か所かあるのだそうです。別荘を持ってしまうと、維持のための費用がかかってしまいます。全国に点在している秘密の宿を、自分の別荘という考え方でめぐっているのだそうでした。

嵐山さんが紹介していたことに、池内さんの早起きがありました。旅先であっても、池内さんは早く起きて散歩をしたあと、締め切りを控えた連載原稿を数枚書き終えてから朝食なんだそうです。朝飯前ってやつです。嵐山さんは、それがうらやましいんだと言っていた記憶があります。

そうやって日本国内のあちこちを旅して歩いているのが、池内紀さんなんだな、と記憶していました。フットワークの軽い池内さん。

 ◆  ◆

本書に取り上げている地名は、どれも一般になじみのあるとは言えないところばかりです。取り上げているのはヘンなものだし。

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【おやっと思ったところ】

P097
祭りに対して、一過言めいたものの、その二、「出口から入れ」

祭りの参詣をするのに、混んでいるなら、出口から逆行すればよいという。東京浅草の鷲神社でのこと。三時間待ちだったので、出口から入り、縁起物の熊手をひやかしながら、じりじりと本堂わきに近づき、

P098
やっと順番のまわってきたお客がお参りをしている。その横に並んでお参りをすませた。べつだん列に割りこんだわけでなく、出口を入り口としたまでのこと。神さまだってウルサイことはおっしゃらないだろう。

って、どうなんでしょう? 割り込みよりももっとひどくないか? ここばかりは後味がよくありませんでした。