[NO.1568] 世界の美しい灯台/フォトミュージアム

00.jpg

世界の美しい灯台/フォトミュージアム
デイヴィッド・ロス
秋山絵里菜
原書房
2022年03月18日 初版第1刷発行
222頁

海の旅の安全を守る灯台。世界の海岸に古代から存在し、商業輸送が増えた18世紀半ばからは建築技術の発展もあり、その数も増えた。強風、荒波、嵐に耐え、光を投げかけ続ける灯台200点以上を大判写真と簡潔な解説で紹介する。 出版社サイトの紹介から リンク、こちら 

灯台本」なる言葉で、すずきたけしさんが『本の雑誌2022年6月号』「新刊めったくたガイド」に紹介していたのが、この本でした。リンク、こちら 

まるごと一冊、「世界の美しい灯台」の写真集です。絶妙なシャッターチャンスで撮られた灯台は、どれもが見とれるばかり。その数200基以上。

絶海の孤島バージョンをひとつとっても、北の果てに全身を氷で閉ざされたものから、南海の青空の下に輝く真っ白な石造りまでバリエーションが尽きません。営々と築いてきた歴史の積層、その厚みといったら。

灯台は孤島にだけではありません。北米五大湖に、あるいは海に面していないスイスやオーストリアにもあります。静かな湾内や突堤の先端でけなげに光るものまで。

興味深かったのが、地域によって特徴のようなものが感じられたことでした。本書は
・アメリカとカナダ
・ヨーロッパ
・イギリスとアイルランド
・その他の地域
という4つの章立てで編集されています。「アメリカとカナダ」では、いかにも清教徒ふうな印象。(そういう選び方を意図して編集されているのかもしれませんが)。ヨーロッパでは、ローマ時代からの歴史の重み、「イギリスとアイルランド」では、伝統ある奥行き。その他の地域では多彩なデザインと自然環境でした。国によっては、経済的な理由で保存しきれずに朽ちていく姿とか。

 ◆ ◆

収録されている写真をネットで見られるのは、意外なことにAmazonのページでした。6点の画像が見られます。しかも、拡大が可能。出版社サイトではないんです。
Amazonのリンク、こちら 左下「6点すべてのイメージを見る」をクリックします。

 ◆ ◆

P.177
「その他の地域」
 今や世界の現役灯台のほとんどは自動化し、電球や電源の障害が起きた際の安全システムを備え、遠隔地から管理されている。太陽光発電の普及も進んでいる。
 ブロックハウス(小型の要塞)などの軍事施設をのぞけば、あらゆる建造物の中で灯台こそが最も機能に徹した存在ではないだろうか。使命はただひとつ、光を適切な高さから投じ、特定の距離まで届けることだ。灯台の設計や信号について科学的に研究するファロロジーという学問さえある。それでも、灯台は個性豊かで、また美しい。その魅力のひとつが灯台の形だろう。イギリス人技師ジョン・スミートンが生み出した、土台から上部にかけて徐々に細くなっていく形状はその代表格だ。新しい技術の登場にともない、設計の可能性も広がってきた。ここでは南極をのぞくすべての大陸から灯台を紹介するが、実に様々な形や素材で造られていることがわかるだろう。しかし、灯台の美しさは見た目だけではない。ブロックハウスとは異なり、灯台にはポジティブな役割がある。麗しくも堅牢なたたずまいで沿岸の景色を彩り,大自然に立ち向かう人間の終わりなき闘いについて思い出させてくれるのだ。
 かつてジョージ・バーナード・ショウはこう記している。「人間の手による建造物の中で、灯台ほど利他的なものがあるだろうか。灯台は役に立つためだけに建てられているのだ」と。

この文章には、完全にやられてしまいました。まるで村上春樹が小説中、引用する(と読者に思わせる)百科事典からの説明のよう。著者デイヴィッド・ロスの原文がいいのか、秋山絵里菜さんの翻訳がいいのか。おそらく両方が相まってなのでしょう。

ファロロジーにつづいて、イギリス人技師ジョン・スミートン紹介のところなどたまりません。最初、ジョン・スミスの間違いかと思ってしまいました。(笑) ちなみに、ファロロジーについては、日本財団によるHP内に、「灯台のことを、もっと知りたい! 「ファロロジー」のススメ 2019/09/30」なるページがありました。こちらも、ちょっと疑っていたのですがね。リンク、こちら

[フォトミュージアム]なる写真集で、文章に魅了されるとは思ってもいませんでした。

 ◆ ◆

本書の帯にあったので知ったのが、「灯台どうだい?」(編集長 不動まゆう)というマニアックなフリーペーパーについて。ホームページのリンク、こちら

『灯台どうだい?』 はフリーペーパーとして、各地の灯台、海事系博物館、海っぽいお店などに置いてあります。 また年会費1,000円で1年に4冊を購読できるサポーター制度もあります。

と、ありましたが、残念ながら サポーター制度終了について NEW (2022.4.6更新) だそうです。

登録すると、無料でバックナンバーを電子ブックでダウンロードできるのは継続するとのこと。

電子ブックはいいですね。『世界の美しい灯台』もそっちのほうがいいかもしれません。紙質がよく、重いので扱いに困ります。スマホじゃ画面が小さすぎるけれど、タブレットならそこそこ。いっそのこと大画面のテレビに映したっていい。

『灯台どうだい?』と並んで、本書を読んで得した(?)ことに、

内部に入って見上げたとき、らせんの形がうずまき貝に似ている。

が、あります。らせん階段がうずまき貝を裁断したときの断面に似ています。