[NO.1567] 時間の王

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時間の王
宝樹
稲村文吾阿井幸作
早川書房
2021年09月20日 初版印刷
2021年09月25日 初版発行
303頁

『三体X』の作者、宝樹さんによる時間SF短編集。

解説によれば

P302
『三体』翻訳者のひとり立原透耶氏は「『中国のカジシン(=SF作家の梶尾真治氏)』と密かに呼んでいる」とのことですが、時間をテーマとし、エモーショナルにその物語を紡ぎ上げる姿はたしかに梶尾氏を彷彿とさせるところがあるかもしれません。

『中国のカジシン』って、すごいな。

「......よれば」ついでに、もうひとつ。
巻頭の「日本語版『時間の王』の出版に寄せて」によれば、子どものころから読んでいた日本のSF小説は本棚に百冊以上あるとのこと。
具体的に挙げているのは
小松左京『宇宙漂流』『日本沈没』
小林泰三「酔歩する男」
『百億の昼と千億の夜』
『マイナス・ゼロ』

 ◆ ◆

本書に収録されているのは7つの短篇
「穴居するものたち」
「三国献麺記」
「成都往事」
「最初のタイムトラベラー」
「九百九十九本のばら」
「時間の王」
「暗黒へ」

どれも若いなあというのが感想。恋愛ものであっても、同人誌に掲載されているような「感じ」。初出を見ると、そういう作品もありました。

「感じ」ついでにいうと、「最初のタイムトラベラー」が星新一っぽい。これだけ掌編でした。「ショート・ショート」なる呼び名、ジャンルとして今もあるのでしょうか。

「時間の王」は「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」を思い浮かべました。で、脱線・逸脱。

ここがウィネトカなら、きみはジュディ」というタイトルで、時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー) というハヤカワ文庫が近年出ている。(おっと、調べたら2020年のことでした。10年はひと昔、ついこのあいだ)。

でもですねえ、『タイム・トラベラー 時間SFコレクション』 (新潮文庫)に掲載されている「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」の方がだんぜんいいのです。先日、比べてみたら、訳が違っていました。Amazonで、1987年版が200円前後です。なんとも幸せな時代になったものです。これって、一度買いそびれたら、なかなか入手できなくなるだろうと(書店注文で買うときに)思ったものです。絶版になってからだと、それこそ都内から横浜まで、古書店を足で回るしか方法はないのというのが、昔の本好きの常識でしたから。

どちらかというと、ジャック・フィニイの作風が好きです。フィリップ・K・ディックもきらいじゃありませんが。

 ◆ ◆

本書にたどり着いたきっかけは、雑誌『本の雑誌 2022年5月号』p128 たいむとらべらーさんいらっしゃい/時間SFの幕の内弁当/藤岡みなみ で、紹介されていたことでした。もっと、まとまった紹介では、WEB本の雑誌/新刊めったくたガイド/趣向たっぷりの短編集宝樹『時間の王』をお薦め!/文=大森望 リンク、こちら

大森望さんはやっぱりすごい。本の雑誌の連載記事では、失礼ながらいつも斜め読みなのですが、こうしてあらためて(WEB本の雑誌で)読むと、そつのない!プロの!手練れの!紹介記事であることに驚きます。「三国献麺記」を要約したときの大森さんの手際を考えてしまいました。おそらくたいした時間をかけてはいないのではないでしょうか。ちゃっちゃと書き進めたはずです。

 ◆ ◆

P302
『三体』翻訳者のひとり立原透耶氏は「『中国のカジシン(=SF作家の梶尾真治氏)』と密かに呼んでいる」とのことですが、時間をテーマとし、エモーショナルにその物語を紡ぎ上げる姿はたしかに梶尾氏を彷彿とさせるところがあるかもしれません

 ◆ ◆

【おやっと思ったこと】シリーズ

P84
しかし曹操みずから率いていたこの一隊については、恐ろしいほどの無惨さと危険さだったと言ってよかった。
「三国献麺記」稲村文吾訳

「無惨さ」「危険さ」の「さ」に違和感をおぼえました。

ブログ 許容される日本語 に「緊迫さ」というタイトルの記事がありました。リンク、こちら
接尾語「さ」について、丁寧な説明がありました。「「○○さ」の広がりに注目してみてもおもしろそうです。」と最後に書いています。9年前の記事なので、そのあいだに広がったということでしょうか。

P198
だれでも見れる場合もあれば、設定しておいたパスワードが必要な場合もあって、どちらも自分で決められる。
P204
もし宇宙にいろいろな宇宙人がひしめいているなら、どうしておれたちはそいつらを見れないのか?
「九百九十九本のばら」稲村文吾訳

「ら」ぬきことばの「見れる」がハードカバーの本で使われているのを見たのは初めてではないでしょうか。(限られた記憶の範囲ですが。)「見れる」は使っても「決めれる」は使わないのですね。

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タイムトラベルもののSF小説をネットで検索していて見つけたのが[300books]ブログの記事「【時空もの】タイムトラベル系おすすめSF小説まとめ」でした。リンク、こちら

記事のなかには「一度は読むべき名作たち」の見出しも。「~べき」は、いま風な感じがします。さすがに「死ぬまでに~」は見当たらないみたいです。高齢者にとっては、今さら「死ぬまでに~」と言われてもネエ、ってことなので、なんて御託を並べていたら、残された貴重な時間がますます減ってしまいます(笑)

こちらのブログで勧めている「タイムトラベル系SF小説」のタイトル20作品を見て、思ったのです。こりゃあまだまだ(楽しみに)読むことのできそうな小説が発見できたぞ、と。半分以上読んだことがありましたが、7つは未読です。