中継ステーション[新訳版]/ハヤカワ文庫SF265 クリフォード・D・シマック 山田順子 訳 早川書房 2015年12月20日 印刷 2015年12月25日 発行 366頁 |
古き良き時代のSF。SFの古典として、よく取り上げられる作品。未読だった。
もっと読みにくいかと思っていたけれど、予想外にすらすら読めてしまった。作者シマックの故郷が舞台だそうで、アメリカ中西部の田舎を描写したところが多く出てくる。これが気持ちよく読めて、自分でも驚いた。新訳版だからだろうか。
書かれたのが1963年だというのが理由かもしれないが、現代SF小説と比べてストーリーに凸凹したところが感じられた(ところもあった)。突っ込みどころはないわけではない。しかし、大筋からいえば、わかりやすい。古き良き時代のSFだからだろうか。
主人公の隣人に乱暴者の農夫が出てくるくらいで、CIAのエージェントさえもがいい人なのには可笑しかった。陰謀が出てこない。まあ、異星人の悪人が一人いたけれど、それも主人公と取っ組み合いをしたり、最後にはライフル銃で撃たれてしまうのだから、のんきな展開といえる。ちゃんとレーザー銃を持っているのに、頭を吹き飛ばされてしまうのには、あ然。
全体としてファンタジーかな。これが書かれた社会背景が、60年代の冷戦時代というのもあるというので、なんとなく納得せざるを得ないが。
前半から中ほどまでの設定を読むまでは、十分に説得力も感じられてついていけた。ところが、中ほどから終末部への展開が、白けてしまうところも。そんなにみんないい人ばかりでいいのか? と。とんとん拍子にストーリーが運んでしまって、あんぐり。後半部だけで、あと2冊くらいになりそうだったんだけどなあ。
前評判に期待し過ぎだったかな。ラリー・ニーヴンの「リングワールド」みたいに、発想としてはかなり面白そうな気がしていたので。
考えてみると、これが書かれてからの50年間で、SFが進化した分量が大きかったということなのだろう。
なんだかんだといっても、純粋に楽しい読書時間を得られたことには変わりない。
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原書が読めれば解決するのだろうが、ふーん、と思ったところがいくつか。
P330
わたしたちに理力をもたらしてくれるのは、マシンのメカニズムの助けを借りた、生身の生命体の意識なのだ
ここに飛び出してきた「理力」っていうのは、あのSF大作映画でいうところの「フォース」ってやつと似ているのだろうか。
本作のキーワードともいえそうなのが、《タリスマン》だった。このあたりが、ファンタジー小説っぽいところかな。
CIAエージェントが身分を隠すために使った職業にからめて出てきた用語に、ニンジンをニジンと表記したところがあった。つまり、現地の田舎風方言ってことなんだろう。新訳での工夫なのか。
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本書の主題が「寛容」だという。異星人間のトラブルというのが、人種とか国家間での冷戦を背景としたアナロジーってことでいってしまっては、あまりにも詰まらない。
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