本の雑誌2021年1月 狛犬ひと踊り号 No.451 特集=本の雑誌が選ぶ2020年度ベスト10 |
自分もそうなのだが、「本の雑誌」を手にするのは、(本好きな)読者が選書の手立てという理由が多いだろう。その意味では、なかなかお得な号だった。特集が「本の雑誌が選ぶ2020年度ベスト10」ということで、巻頭からジャンル別のベスト10が並んでいる。もちろん、一番最初に並ぶ記事は「社内座談会実況中継」「読者が選んだベスト1」なのだが。
ジャンル別の選者は、SF=鏡明、ミステリー=池上冬樹、時代小説=縄田一男、現代文学=佐久間文子、ノンフィクション=栗下直也、エンタメ=池上次郎。それらの記事のあいまに「私のベスト3」が挿入されていて、この人選がなかなかいい。北村薫、田口久美子、紀田順一郎、高野秀行、とみさわ昭仁、橋本輝幸、末井昭、春日武彦、深町眞理子、大久保寛、正木香子、今柊二、久世番子、田口俊樹、村瀬秀信、クラフト・エヴィング商會(吉田浩美・吉田篤弘)、羽田詩津子、嵐山光三郎、黒田信一、内堀弘、風間賢二、白石朗、柿沼瑛子、柳下毅一郎、小森収、山崎まどか。その記事のあいだにも、中場利一、書店員三氏選んだこの三冊、装丁家二氏のベスト3が掲載されている。
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P36
●SF音痴が行くSF古典宇宙の旅(15)
恐怖の"自分退行現象"
=高野秀行
今回も続けてフィリップ・K・ディックの『ユービック』がらみ。この作品における矛盾点を列挙していて、なるほどと身につまされた。たしかに指摘のとおり。
高野さんは、「気持ち悪さ」と表現している。読んでいて違和感を覚えたところがあったことを、うっすらと思い出す。それは『ドグラ・マグラ』や『虚無への供物』を思い出させるのだとも。なるほどと感心した。うんうん。
原因として、ディックが「重度のヤク中で、ドラッグをやりながら書き飛ばしていた」ことを挙げている。さらに納得した。
高野さんは、ここで「自分退行現象」なる視点で論を進めているのだが、それは次回に続くのだという。楽しみ。
P52
新刊めったくたガイド
プロパガンダを警告する
『操作される現実』におののく!
冬木糸一
『操作される現実 VR・合成音声・ディープフェイクが生む虚構のプロパガンダ』(サミュエル・ウーリー著/小林啓倫訳/白揚社/2900円)
海外のネット掲示板 Reddit では、新しい言語モデルを用いた Bot が、人間にバレずに書き込みを行っていたことが明らかになったという。つまり、人工知能による自然な文章生成技術が進歩したため、SNSへの書き込みは人間ではなく、AIが行っていることが増えているのだとか。これがへーえ、では済まない。なぜなら、アメリカ大統領選挙でも行われていたのだとも。
すると、AIによる書き込み(文章生成や偽の動画生成)をチェックするためのAIもすでに開発されており、AIvsAIが実際に行われている。なんともはや。
『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』(読書猿著/ダイヤモンド社/2800円)
この本を紹介している記事が、週刊誌の書評にもあった。読書猿さん、新刊が出ているな。ところで、「ポモドーロ・テクニック」なんて知らなんだ。時間管理術のひとつなんだとか。この手の話はきりがない。
P73
広告から
『手のひら2』本の雑誌編集部編
〈特集〉雑誌大好き!表紙を読む
おもしろそう。
P81
今柊二
ベスト3から
③『地球の歩き方J01 東京 2021~2022年版』地球の歩き方編集室/ダイヤモンド・ビッグ社
あの「地球の歩き方」シリーズで、東京とは。
86
風間賢二
ベスト3から
①『言語の七番目の機能』ローラン・ビネ著/高橋啓訳/東京創元社
「よく言えば、サルでもわかる記号学入門的な小説」という。登場人物が刑事と助手役の大学教員以外は実在する現代思想の大御所「フーコー、デリダ、ラカン、キリステヴァ、エーコ」など。筒井康隆もびっくりだ。
P108
生き残れ!燃える作家年代記(21)心がけ編
社会の窓はいつも開けっ放しにしておくのが肝要なんでござる
◎鈴木輝一郎
これまで、PCの使い方などの紹介が面白かったが、今回はコロナ禍で身につまされる内容。別に小説家志望でもないけれど、この時代には参考になる。
P108
要するに、「他人と関わる場をつくっておかないと、人間が壊れる」んです。(略)鬱病を発症しやすい職業環境ですしね。
社交的じゃない、活動的でもない、人見知りが激しい、運動は嫌い。当てはまりそう。
P108
運動不足と日照不足と睡眠不足、なにより「他人との会話不足」は、この仕事をやってゆく上では禁物なのは確か。P109
だもんで、鈴木輝一郎小説講座からデビューした受講生には、しつこく「外に出て人と会う趣味」をつくれ、って言ってます。
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今月号でいちばんめでたい記事は、「机周遊記」が再開したこと。
P62 机周遊記 竹書房・水上志郎氏の巻 恐るべき古本机
もちろん写真もいいが、鈴木先輩によるイラストがなによりもいい。本の山の傾斜について、質問されると
今のところは大丈夫です。震災を経て試行錯誤を繰り返してこうなりました。
素晴らしい。
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