草原の国キルギスで勇者になった男 春間豪太郎 新潮社 2020年10月30日 発行 279頁 |
最初の出だしは、とっつきにくいところがあって、すんなり読み進めるのに抵抗があったけれど、いざ、冒険が実際に始まったあたりからは一気呵成に読了してしまった。書かれている内容は激しくハードなのに、本人の認識は実に軽いノリなのだ。うたい文句が「リアルRPG」には、あきれてしまう。
冒険ものということもあって、こういう本は著者の人柄に左右されるところが大きい。どうも、自己肯定感に今ひとつなところが、おありになるのではないかな。特に初めのところ、生い立ちの家族との間柄のあたり。
それにしても能力が高い人だ。もともと記憶力には自信があったというが、受験勉強の逸話が面白い。英語、フランス語、ロシア語、アラビア語で会話ができる。気象予報士の資格まである。歌舞伎町、ミナミ、祇園で客引きバイトをしたことで交渉術を身につけ、キックボクシングのジムにも通う。
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旅の途中、ソーラーパネルで充電をして、タブレット端末を使いネットに接続する。それで仕事をこなして収入を得るというところにはびっくりした。本書では翻訳の仕事をしたとあるが、他にもプログラミングまでもこなしてしまったという。キルギスを馬で旅しながらなのだ。
もちろん、こうした冒険ものでは、実際に体験したことで、書かなかった(書けなかった)こともたくさんあるだろう。きつくて本にできない体験があったはずだ。本書では、「事件」は、ふいに何度でもやってくる。また、いくら知的にも、身体的にも、(本人の言葉でいえば)「スキル」を高めたとしても、口にできない努力だってあっただろう。たとえは変だけれど、気象予報士の資格をとったのだって、理由がマイナス14度の中で野宿した反省からだったというが、そうそうできることじゃない。本人は1000時間勉強したと軽く書いている。けれども、読者を深刻にさせることはない。
動物との付き合い方も特徴だ。馬、羊、犬、他にも登場する動物の種類が多い。イヌワシや野生のオオカミを捕獲してい飼う知人が登場する。筆者が先々で出会う動物に向ける目は愛情深いものがある。シロと名付けた犬のため、どれだけのことをしてやったか。現地ではペットという概念がないので、なおさらギャップが際立つ。
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前著『行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』も読んでみたい。
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