[NO.1533] 旅ごころはリュートに乗って

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旅ごころはリュートに乗って/歌がみちびく中世巡礼
星野博美
平凡社
2020年09月25日 初版第1刷発行
341頁

リュートが好きだ。ずいぶん昔、つのだたかしがリュートで参加するグループ「タブラトゥーラ」の演奏を生で聴いたことがきっかけだった。それからしばらく経ってから、TVCMでつのだたかしのシチリアーナが流れ、そのときのことを思い出していた。

週刊誌の書評で「リュート」の文字を目にしたので読んでみた。初出は平凡社『こころ』Vol.36~53(2017年4月~2020年2月)。著者についてはもとより、この雑誌のことも知らなかったので検索。すると今年のVol.57で終刊だという。

著者星野さんは自分でリュートを習っているのだという。きっかけが面白い。『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』(文藝春秋)を書くために読んでいた本のなかに、天正遣欧少年使節の4人が秀吉の御前でリュートを弾いたという記述を見つけたことだったとあった。

本書でも、大半は中世ヨーロッパのキリスト教についての記述が続く。リュートの演奏技術を高めることよりも、自分の好きな曲を弾きたかったのだという。好きな曲とはなにかといえば、それが中世ヨーロッパのものだった。譜面もなく、ネットから楽譜をさがしていたけれど、そのうちに耳コピで譜面に起こすようになったのだとも。それが『モンセラートの朱い本』や「カンティガ」(正式名称『聖母マリアのカンティガ(頌歌集<しょうかしゅう>)だったという。

本書の内訳が全20話あるうち、実に10話がこのカンティガに充てられている。レコンキスタなどという単語を目にしたのは、高校の世界史以来だったかもしれない。

日本のキリシタン史についての記述もある。殉教についてが胸を打つ。「20話 日本の殉教列伝」では、昨年来日したローマ教皇についてのところが忘れられない。

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著者星野さんは、ずっと反西洋思考なんだそうだ。音楽室に貼ってある音楽家の顔。そのほとんどがドイツとオーストリアばかり。フランスではドビュッシー、イタリアはロッシーニのみ。イギリスは誰もいない。

P24
そして最後にはアメリカのフォスターとロシアのチャイコフスキーが、申し訳程度に付け加えられていて、いかにも日本が敗戦した連合国の二人を足すことでバランスを取ったように見える。

美術室では今度はイタリア・ルネサンスの巨匠、ミケランジェロのレプリカ像。

そこにはドイツやオーストリアの影はない。一体全体、どんな西洋観を我々に植えつけたかったのか。
その後遺症はいまだに日本を呪縛していると言ってもいい。


1979年、中2でロックに出会い、熱中したのだという。キッス、クラッシュ、ポリス、クイーン、デヴィッド・ボウイ、セックス・ピストルズの名前が出てきた。当時、歌詞を訳したのだとも。

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自分でもアコースティックギターでソロ曲を練習しているので、リュートのタブ付について紹介しているところが興味深かった。可笑しかったのが、コンピューターのOSにタブ譜を例えているところ。(P30)

タブラチュアの種類は3つに分けられるという。

【フランス式】日本で利用者が多く、OSでいえばウィンドウズ。

イタリア式】シェアではフランス式に及ばないがコアな信奉者がいるのはマックのよう。

【ミラン】一社しか採用していないけれど、熱烈ファンをもつベンチャー企業が開発。

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巻末に「主要参考文献」がある。日ごろ、馴染みのないキリスト教専門書や歴史書の出版社名が新鮮。

ノンフィクション作家星野さんのほかの本を読んでみたい。
『転がる香港に苔は生えない』『愚か者、中国をゆく』『島へ免許を取りに行く』『戸越銀座でつかまえて』『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』『今日はヒョウ柄を着る日』