FACTFULNESS(ファクトフルネス)/10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ハンス・ロスリング、オーラ ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド 上杉周作、関美和 訳 日経BP社 2019年01月15日 第1版第1刷発行 397頁 |
ベストセラーを読むのは久しぶり。読後、ひと仕事が終わったような気になる。書店では売れ筋の棚に目立つよう陳列されていた。売れ方が落ち着いたなら、この本はどのジャンルに並べられるのだろうと考える。雑誌プレジデントでは2020年5月29日号が特集を組んだくらいなのだから、やはりビジネス書の棚なのだろうな。
ハラリさんの『サピエンス全史』と同じラインで読まれているのかと思いきや、ビジネス書の範疇とはこれいかにと不思議に思っていた。すると、投資するなら、今やヨーロッパやアメリカではなくアジア・アフリカ圏であるなんて出てきたところで納得する。『ファクトフルネス』の著者が講演に呼ばれた理由がそれだったという。
読み終わって、なんだか温かい気分にさせられた。
P324
事実に基づいて世界を見れば、世の中もそれほど悪くないと思えてくる。
何よりもファクト(事実)に基づく見方の大切さを重んじた著者の意見だ。
共著者である娘さんによる「あとがき」には、
P328
父の中にはいつも、相反する2つの想いがあった。世界を心配する気持ちと、あふれるほどの人生への喜びだ。
とある。
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構成がうまい。巻末のスタッフへの感謝に満ちた「謝辞」を読むと、編集はスタッフがあたっていることがわかる。どの逸話を使うのか、どういった構成にするのか、考え抜いたつくりだ。もちろん、著者(ハンスさん)が書いた原稿が元になっているし、構成にしても、中心はハンスさんの意見だろう。しかし、一冊の本にするために、手間をかけて作業をしたのは集団の力によるものだった。なにしろ、データを集める作業からして、そうなのだから。
これまでの本には見られない工夫がいくつかある。たとえば、謝辞のなかにある「ありがとう」をささげた人名(と組織)だけで、分量が3ページ弱もある。まるで新約聖書の冒頭にならぶ人名のよう。カタカナ表記(財団などはさすがに漢字だが)の人名と組織名が延々と続くさまは壮観だ。
「脚注」の膨大な量については、あちこちで紹介もされている。さらに驚いたのが、続けて掲載されている「出典」だった。全部で24ページという膨大な量。ところどころに日本語による記述もあるが、大半が原語による書籍名と文献名の紹介が続く。いったい日本人の読者のうちで、何人がこれを読んだり気にしたりするのだろう。もちろん、本書を翻訳するにあたって、契約上の条件でそうしているのだろうが。それだけ、事実に基づくことを重視するのだという姿勢に貫かれている証明だろう。
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本書について、メディアには数多くの紹介と言及があふれている。(なにしろベストセラーなのだから)。それでも疑問に思ったことがある。見当違いなのかもしれないが。
著者によれば、教育を受けた西洋社会の人びとは、本当の事実を知らない。その例として、チンパンジーより劣る正答率しか出せないというクイズが列挙されている。その理由は「10の本能による」のだとする。本当にそうなのか。
なぜ、クイズに正解できないのか。現代の発展途上国の現状は、昔に学校で習ったのとは大きく変わっているのだという。
これだけも、なかなかキャッチーなつかみだ。さらに図版の使い方が優れている。表紙をめくった(見返し)最初に出てくるのが「世界保健チャート」と呼ぶ図版。うーん、やめておこう。きりがなくなる。こうしてなにか自分でも意見をあれこれ出したくなるのが、本書の特徴でもある。
さらに面白いのが、ネット上に用意されたサイトが充実していること。もちろん英語表記なのだが、「ウェブ脚注(バージョン4)の日本語訳」なるサイトは日本語で読めるようになっている。リンク、こちら。
こんなのは今までなかったサービスだろう。さらに、あれま、と思ったのが、いくつもの紹介サイトが存在することだった。上記、「世界保健チャート」を日本語に訳した上、わかりやすく書き換えた図版まで見つかった。「週刊東洋経済」サイトに載っている。リンク、こちら。
今さらながら、ネットってすごい。
著者ハンスさんたちが設立した「Gap Minder」のサイトが一番充実しているのはもちろんだけれど、その中の「 Dollar Street 」は、見ているだけでも面白い。リンク、こちら。
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