[NO.1516] 読む京都

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読む京都
入江敦彦
本の雑誌社
2018年03月10日 初版第1刷発行
237頁

文章が面白すぎて、その上さらに情報量が多すぎて、なかなか大変だった。初めて読んだのは「本の雑誌」に連載していたとき。あまりにも面白すぎてびっくりして、抜粋をした記憶がある。それが本にまとめられたとあっては、読まずにはいられない。

初出
「本の雑誌」2015年08月号~2017年09月号
「聴く京都」「京都本の10冊」は書き下ろし

現在もロンドン在住。最新刊が『英国ロックダウン100日日記』。それなのに京都についての本を出し続けられるのは、なんとも。どうも、京都と英国(ロンドン)というのは似たところがありそう。

どうも京都にまつわる話というのは一筋縄ではいかないという先入観がともなう。本書は、そんなイメージどおりに見事な京都についての本を、これでもかあというほどに紹介してくれる。巻末には「書名さくいん」がある。いったい何冊なんだ? っということで数えてみた。大急ぎだったのでざっと数えた結果なので、数え間違いがあるかもしれない。結果は408冊。雑誌から小説まで含んでいる。

 ◆  ◆

出だしの【アメしょん】なる流行語に惑わされそうになる。プラグマティズムという概念を持ちだして、京都という得たいのしれない相手へのアプローチの仕方を説明している。これだけでも十分、引きつけられた。

さらにびっくり、目から鱗が落ちたのが、第1章の日本文学史における京都人としての視点の重要性を述べた部分。江戸時代までのいわゆる古典文学の読み方として、作者がみな「京都人」であったという視点に立って読むことを忘れているという指摘。

『源氏物語』『枕草子』『土佐日記』『竹取物語』『紫式部日記』と目がまわるほどに繰り出される有名な古典の題名。そのどれもが、京都という視点がいかほどに重要であるかを突いてくる。なかでもとりわけ『古今和歌集』に始まる平安期の八代集についてのところ、説得力があった。勅撰和歌集の意味。

中世から江戸期がこれに続く。とのかく京都という中心と京都以外の対比が重要な視点であるという趣旨に貫かれている。おもしろし。こんな文学史は読んだことがない。これだけでも掘り出し物。何冊も京都に関する本を出してきた入江敦彦という著者の魅力が感じられる。

入江文学史は近代に続く。明治期は「作家の京都クランドツアー」なるタイトル。この一見おもしろく引きつけるキャッチーなところも魅力だろう。イギリス貴族の子供が、かつて勉学の集大成として家庭教師引率のもと、イタリア旅行をしたというグランドツアーを明治期の作家に当てはめると、それが京都旅行にあたるというのだ。

明治期の京都がいかに近代化を目指して文明開化に励んだかは、インクラインで有名な琵琶湖疎水や水力発電、路面電車などで知られている。文学でも同じだったという。

P44
むしろ京都は新たな文学の母体となりつつあった。蝙蝠傘とミシンが出会う手術台と化したといってもいいかもしれない。

これは少し奇をてらいすぎなきらいもあるが、こうした目を引きつける書き方が特徴だ。つづけて紹介しているのが、中原中也の立命館中学時代の逸話につながる。立命館中学生だった中原中也が交友を結ぶのがダダイスト高橋新吉とあの富永太郎であった。なかなかに斬新な十代。

ここまでで、まだ本書の1/4くらい。このペースではとても先に進めない。

面白かったのが料理本の紹介。著者にとって一押しが『京料理のこころみ』(柴田日本料理研鑽会 著、柴田書店刊)だという。ほかにも何冊も挙げている中で、どうしてこの本がいいのか。その理由として、ここで交わされている料理人6人の会話にあるとする。丁々発止のやりとりの妙味だと。

ああ、きりがない。

よそさんと呼ぶ非京都人が書いた本として紹介しているのが『天使突抜一丁目』(通崎睦美著、淡交社)。

P141
どうやら彼女にとってキモノを着て碁盤の目を自転車で走る生活は、内澤旬子が豚飼って土間のある田舎のボロ家で生きるのに近い感覚であるらしい。ブンショウテクスチュアが似てるから思うだけかもしれないが。あ、あと二人ともスタイルいいよね。

マツコ・デラックスとかナンシー関につながる。

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山ほど紹介している京都本のなかで、誉めている本がある。それが正当派、京都本だったりするとへーえと思う。なにしろ京都人というのはストレートな物言いはしないから。

変化球のような取り上げ方をしているのが、「京都本の10冊」(P214)。このコーナー以前に取り上げていた誉め本と重複するけれど、著者として紹介すると、小松和彦ほか、杉本秀太郎、井上章一、アレックス・カー、九鬼周造、林屋辰三郎、柳宗悦、堀宗凡、柴田日本料理研鑽会、有吉佐和子。

そうそう、くるりの岸田繁を推しているのが意外だった。いや、やっぱりそうなのか。『石、転がっといたらええやん。』(ロッキング・オン)を「超絶楽しみ」という。