読破できない難解な本がわかる本/図解で読みとく世界の名著60 富増章成 ダイヤモンド社 2019年03月27日 第1刷発行 271頁 |
予備校の先生が書いただけあってわかりやすい。お手軽に把握できます。「図解で読みとく......」とサブタイトルにありますが、基本は文章による説明でした。名著60冊ごとに見開き2ページという構成で、それぞれ1つずつイラストがありますので、サブタイトルの「図解」きっとそのことを指しているのでしょう。いかにも予備校の授業で提示する「図」みたい。これはどなたが描いたのかとページをめくってもわからなかったので、もちろん著者なのでしょうか。
なるほど、そういう視点なのかと思ったきっかけが、「はじめに」に書いてあった「名著が難解な理由」を読んだことでした。
P3
分厚い古典的「名著」は、その時代背景と常識を前提として書かれているので、多くの場合、現代の私たちにとっては説明不足なのです。また、その学問世界の専門用語を「知ってるんでしょ?」という前提のもとに書かれていますから、こっちはわかるわけがない。
著者である富増章成先生の名著に対するスタンスですね。いわゆる古典の位置づけと一緒なんだ、と思いました。
つづけて富増先生は書いています。名著はわかりにくいので「読破することができない本」である。「下手をすると一冊をしっかりと理解するのに20年以上かか」ることさえある。だからこそ、まずおおざっぱに理解してから、興味がわいたところで原典にあたればよいと。
ついでに思い出したことをひとつ。先日読んだ別の本にあったこととして、いきなり原典を読む前に、必ず新書などの概略を解説してある本を何冊か目をとおしてからがよいとのこと。これもいうならば、原典の位置づけ、(「知ってるんでしょ?」)といったことを頭に入れてから、原典を読めということなのでしょうね。
「図解」といえば、むしろ冒頭にある「ひと目でわかる名著の関連図」の方が興味深く思いました。コンパクトなので省略も多いけれど、年代表記もあるので、通史や位置づけ、関連を把握するにはいい図です。いかにも教室で教わっている気分になりました。
なにより「本書の使い方」というページ(P5)が親切丁寧です。本書の構成は、この手の本によくある年代順ではありません。出版社サイトに「目次」が掲載されているので、ぜひ参考にした方がいいでしょう。リンク、こちら。 サイトのページにある「目次・著者紹介」欄の右隣「詳細を見る」をクリックすると出てきます。いまどきの本には珍しいくらい詳細な目次でした。
8つの章立てによって名著が選ばれています。面白いのは「本の難易度」が★5つで示されているところ。重要度や深さとは関係なく、読みにくい基準なのだそうです。アリストテレス『形而上学』が★5つなのに対して、『ソクラテスの弁明』は★1つ。へーえと思ったのがキケロ『老境について』も★1つだったこと。キケロなんて読んだことがなかったけれど、そうなんだと思ってしまいました。読むかな?
もちろん、脚注もあります。各章末にはピンクの枠内に「人生で役に立つこと」が3行と著者略歴が2~4行。。脚注はともかく、人生に役立つことまでは、個人的には蛇足でしたかね。略歴で面白かったのが「マルクス」の中に「映画に『マルクス・エンゲルス』(2017年)がある。」というところ。最近になって、そんな映画があったとは知りませんでした。
出版社サイト「目次」には書いてありませんが、巻末に「参考資料」あり。中央公論社の中公バックス「世界の名著」「日本の名著」シリーズが多い。原典では岩波文庫も。もちろん定番も押さえてあります。マクルーハン『グーテンベルクの銀河系』みすず書房、ボードリヤール『消費社会の神話と構造』紀伊國屋書店、ベンヤミン『複製技術時代の芸術』晶文社クラシックス、ドゥルーズ/ガタリ『アンチ・オイディプス』河出書房新社、フロム『自由からの逃走 新版』東京創元社、ハンナ・アーレント『全体主義の起原1 2 3 新版』みすず書房、『ウィトゲンシュタイン全集(1)論理哲学論考』大修館書店、『新訳 ソシュール一般言語学講義』研究社、フーコー『狂気の歴史』新潮社、クーン『科学革命の構造』みすず書房などなど。
面白かったのが、NHK出版の100分de名著シリーズが4冊並んでいたこと。ほかにも訳が新版だったり、シリーズ名が新しくなっていたりと今風です。マイケル・サンデルやダイヤモンド社『嫌われる勇気』、講談社ブルーバックス『量子力学が語る世界像』なんてものまで。最後の3冊は『最新図説倫理』浜島書店、『新倫理資料』実教出版、『高等学校 現代倫理』清水書院でした。高校生向けなのですね。
著者は興味のあるところから読めばよいと書いていましたが、ほぼページ順で通読してしまいました。
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