[NO.1490] 本棚探偵最後の挨拶

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本棚探偵最後の挨拶
喜国雅彦
双葉社
2014年04月20日 第1刷発行
397頁

読後、何をしたかというと、「本棚探偵」というキーワードでネット検索をしていた。

この手の本は、紹介された本を読後にどれだけ読もうという気持ちにさせられたかということが勝負じゃないかな。完膚なきまでにやられました、その意味で。

喜国さんの本は、これまでに『本棚探偵の冒険』『本棚探偵の回想』 の2冊を読んでいた。ところが悲しいことに、まったく印象が残っていないのです。自サイト内を検索してみて、『本棚探偵の冒険』の読後の記録に著者オリジナル検印が見つかった。これを見て少し記憶が思い出されてきたくらい。ちなみにヤフオクのサイトに画像が見つかった。リンク、こちら。 すごいですよ、落札価格が12500円也。

「本棚探偵の~」シリーズは、まだ他にも『本棚探偵の生還』が残っている。もちろん、シャーロック・ホームズのシリーズからとった題名。『本棚探偵の冒険』『本棚探偵の回想』も、ほとんど読後記録は残っていないので、再読してみようかという気になる。

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古本で、これだけ遊べるというのはいいものだ。本書での遊びは「私家版暗黒館1 誘いの囁き」「私家版暗黒館2 妄想の系譜」「私家版暗黒館3 無名の夜明け」の章だろう。

綾辻行人著『暗黒館の殺人』の私家版を自作しようというもの。初出「IN★POCKET」(講談社のPR誌)に連載したページをそのまま流用して手製の箱要り単行本を作ってしまおうという。

ルリユールの紹介で有名な栃折久美子さんを愛読していた身にとっては、ふーんいいなあという気持ちで読み進んでいると、P166には金属板とボルトを使い、固定して製本してしまおうという箇所が出てきたのに驚いてしまった。微に入り細に入り、イラストと写真で工作手順を紹介している。読者にも、どうだ! 挑戦してみたくなっただろう! という調子だのだ。これには参った。

喜国さんはもともと整理が上手な気がする。P091で紹介しているように、本棚を自作するほど器用でまめなかたなのだ。

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しかし、本書でもっともガツンとやられたのは、もっと別のところだった。「ゴジラ対キングギドラ」「エイリアン対プレデター」「グレートマジンガー対ゲッターロボ」の3章。

内容は、北原尚彦さんと喜国さんの二人で日下三蔵さんの蔵書整理を行いに行ったときの様子を綴ったもの。北原さんだって並の蔵書家ではないのに、もらした感想というのが、

P302
「これって全部、読んだんですか?」

笑ってしまった。かつて読んだ [NO.884] 古本買いまくり漫遊記 からも、十分に古書マニアぶりがうかがえますから。

室内の写真が数葉あるのだが、そのどれもが床から積まれているものばかり。すごいぞ。本当に本に埋もれて死んでいたという草森紳一さんの家を思い出す。

3つの章に付けられたタイトルにあるゴジラだのキングギドラというのは北原さんと日下さんのお二人のこと。つまり、蔵書家(喜国さんの文章には書痴とある)の両巨匠が対戦したという設定なのですね。
うーむ、と呻らされたところが、いつか観たという「アメリカのドキュメント番組」でのエピソードだった。

P302
悪の道に進む青少年たちを、本人の許可を得て刑務所で一泊させるというもの。帰るとき彼らが声をそろえて言ったのはこうだった。
「学校に戻って勉強するよ。ここにいるような人たちのようになったら、おしまいだ」

日下さんの持つ、あまりにも大量本を前にして、ご自分がすごい蔵書家である北原さんが、「帰ったら片付けます。そして必要じゃないものは処分します。......」と言ったというのだ。

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参考になったのが、P307「一箱の夢」で紹介している、いわゆる一箱古本市の話。わけても、「豆本」のこと。

喜国さんが触れているのが、P317「本を置く場所に困っている人に豆本は最強」というフレーズがあった。そのとおり。豆本といえば、田中栞さんだろう。この道にだけは踏み込むまいと思っていたのだが。
この章で、「野宿野郎」編集長かとうさんを目にしたのが、なつかしかった。この小冊子は面白かったな。どこにしまい込んだのかわからないが。

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喜国さんの文章は、どしどし読み進められる特徴があるなと思っていたところ、文体についての記述があって納得した。

P180
小説を朗読で聴くと、文章の良し悪しがよく判る。それを知ったのは江戸川乱歩作品の朗読テープを聴いた時だ。乱歩の文章は、読んでも気づかないが、音で聴くとリズムがすごくいいのだ。それもそのはず、どうやら乱歩は書いた文章を、夫人に朗読してもらいながら直していたらしい。

喜国さんの趣味でもあるランニング中に iPod で音楽の代わりに小説の朗読を聞くという話の章。

乱歩とは「逆にオヤッと思ったのは芥川龍之介」だったとか。

ちなみに、夢野久作『ドグラ・マグラ』を聴きながら、一時間四十分後、十三キロメートルを走った結果、思ったのは、「ランニングと『ドグラ・マグラ』は両立しない。」だったというオチ。すごいですね、こちらは1時間歩くだけでも、それなりに疲れるというのに。

『ドグラ・マグラ』はiTunes Storeに無料でアップされていたとも。今は、どうなのだろう。
【追記】$7.99 でした