[NO.1489] 彗星図書館

suiseitosyokan.jpg

彗星図書館
皆川博子
講談社
2019年08月05日 第1刷発行
363頁

読ませる読ませる、気がつくと、ページがだいぶ進んでいました。これまで著者の皆川博子さんの書くものは手にしたことがありませんでした。

おそらく本の紹介なのだろうなと予想をしながら読み進めました。すると、これまでに読んできた書評とはとんでもなく違うことに気が付きました。まるで物語に引き込まれているような気分になるのです。おもしろい。

もともと流行のファンタジーは好きではありませんでした。けれども、むかしは幻想文学が好きな時期もあったことを思い出しました。本書ではヨーロッパ文学比重が高いようです。田宮虎彦が登場したりもするけれど、だんぜん外国文学の方が多いのが面白かった。

1930年生まれの著者が幼少時に読んだ本のことを実によく記憶していることに感心しました。原稿を書くために現物に再度あたり、その記憶が違っていることも書いてはいますが、とにかくよく物語の筋を覚えていて、これまでに折に触れ、思い出していたようなのです。天性の作家なのでしょう。

年齢がいってからデビューしたのだといい、そのころのことが繰り返し出てきました。その当時の出来事とからめて、いろいろ映画や小説が紹介されます。1970年前後の激動の時代、当時、すでに大人になっていた著者が味わった気分を思うと、なんともいえない思いにかられます。だからでしょうか、皆川博子さんは自分の中に強い価値基準があって、小説や映画、そして体験した出来事をひとつずつ記憶の部屋に配置してきたのではないかな。

本書『彗星図書館』には、この前のシリーズとして『辺境図書館』がありました。こちらも読まねば。