[NO.1485] 喰らう読書術

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喰らう読書術/一番おもしろい本の読み方
ワニブックスPLUS新書
荒俣宏
2014年06月25日 初版発行
333頁

オタクのかたまりのような「アラマタ」さんによる読書について。しかも御自分の「本」へのアプローチの仕方、手の内を惜しげもなく明かしてしまっているのだから、面白くないはずがない。

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ベストセラーとなった『帝都物語』の印税をつぎ込み、一冊数百万円という大判革装釘、博物関連の図譜の数々をヨーロッパの古書店から買いまくる、置き場は当時荒俣さんご自身が寝起きしていた出版社の一室だったという話が当時あった。そんなとんでもない著者の書いた新書だけに、いったい何が書かれているのか興味がわいた。

著者にとっての本との付き合いがこれまでの生い立ちを交えて書かれてあった。やっぱり、と予想どおりの内容だった。人生において本を選ぶなら、その代償として楽しみや喜びをあきらめねばならない。その決心を若いときにしたという。頑固ですねえ。

これまでの人生で、本にのめり込んだ分、デメリットがたくさんあったとも。では、メリットは何があったか。「人生に退屈せずに済んだことです。」

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【細かなあれこれ】

P29
『書物愛』(紀田順一郎著、晶文社)
P46
『書林探訪――古書から読む現代』(紀田順一郎著、松籟社)
荒俣さんのお師匠さんが書いた「本」にまつわる本。紀田先生の「本」についての本も、数が多くて楽しい限り。

P48
アテネオリンピックで、聖火ランナーに選ばれて走った。「ジャッキ・チェン率いる香港チームに聖火を受け渡す役を」したという。
「アラマタ」さんについて、いろいろおかしなエピソードはあっても、これは知りませんでした。いったいどんな服装だったのだろう?

P51
『眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く』(アンドリュー・バーカー著、草思社)
P256
「光スイッチ説」
「眼の誕生」が話題になったのはいつだっただろうか。BSTVでも、そんな内容を放映したことがあった。ひと頃「眼の誕生」が流行したのではなかったか。「カンブリア爆発」と呼ばれる現象と「光スイッチ説」について。なかなかスリリングだ。

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P52
引用
家族がある人は、迷惑がかかるので、よく相談してから、本を買う優先順位を決めましょう。家族を泣かせてまで買い漁れば、それは愛書家ではなく、書痴、書狂、書頓という批判を受けることになるでしょうから。

「古本収集家」にとって、家族に迷惑をかけてしまうという指摘はなんとも身につまされる。と同時に可笑しみを感じる。「アラマタ」さんほど家族に無頓着な収集家はいない。

P66
テルミン
いかにも「テルミン」は「アラマタ」さんにふさわしい。でも、電子楽器に言及しているのは見たことがない。PCについてもない。AIが盛り上がっている今、どうなんだろう? 

P67
『わが宇宙への空想』(ツィオルコフスキー著、理論社、1961)
「ツィオルコフスキー」とはまた、なつかしい名前が飛び出てきた。ゴダード、フォン・ブラウンにつながるロケット開発者の元祖。

P72
髙宮利行
慶應義塾大学文学部定年
慶應愛書家倶楽部
『本の世界はへんな世界』(髙宮利行著、雄松堂書店)
なんとも興味深い本だ。ネット検索すると、出版社サイトに荒俣さんによる書評「世界一貴重な本から笑える出自の珍本まで、慶應の名物教授が書物の世界を語り尽くす」が見つかった。リンク、こちら
あちゃ、『本の世界はへんな世界』(髙宮利行著、雄松堂書店)って、3年前に読んでいたことに気づいた。読書録はとっていない。

P89
『医事雑考 奇・珍・怪』(田中香涯、鳳鳴堂書店)
戦前の出版。「国立国会図書館デジタルコレクション」で全ページがPDF化され、ネット公開されている。リンク、こちら。 奇書だろう。

P98
『広文庫』(物集親子)
物集高見、物集高量
「物集親子」について目にする機会が減っていたし、こちらもすっかり忘れていた。息子の物集高量はTVにも出ていたのに。亡くなれば忘れられてしまうということばがあるが、そのとおりだ。

P99
『新国史大年表』(日置英剛著、国書刊行会)
P100
『国史大年表』(日置昌一著、平凡社)
「日置親子」というのもまた、物集親子のようだ。

P105
30歳になったころから古い博物図鑑に興味を抱き、図譜を見たいと思った著者は

こういう博物学を研究する学者がいた東京大学の傍らに並んでいる学術書専門の古本屋さんを一軒ごとにハントすることにしました。昭和53年ごろのことです。

その頃、こちらも古書店巡回のとき、行っていた。店主はそれほどには怖くなかった。何軒か、古い店構えが思い出される。ごちゃごちゃはしていなくて、重く大判(重厚な)本が多かった。洋書はもとより、日本のものでも革張りだったり。もちろん、それなりに高価だった。その当時すでに大人だったアラマタさんは、モノの割には安かったから、たくさん買っていたという。ガラスパイプがぐるぐる巻いている実験器具のお店を間に挟んで、そんな古書店が並んでいた。

P142
松岡正剛
「千夜千冊」
いわずもがな。

P147
本の特性
バーチャルである
映画、コンピュータ、本
「本」をバーチャルという特性から「映画、コンピュータ」と並べてしまうという視点が独特。

P153 引用
『種の起源』について

あの理論(ダーウィンの進化論)の中でもっともおそろしいのは、「自然現象はすべて偶然の所産であり、計画されたものはなにもない」という大前提です。言い換えれば、神なんかいなくても生物は進化する、というのです。(途中略)これがあったから、宗教界や教養ある市民が猛反発したんですね。

P154
『ダーウィンを数学で証明する』(グレゴリー・チャイティン著、早川書房)
理論を完全に当たり前な現象にしてしまえる方法は、「数字」で書きあらわすこと

P155 引用

生命を数学的に定義すると(途中略)ふつうは、①「代謝をすること」と②「自己増殖すること」です。この二つが満足できれば、それは生命だということができるといいます。ところがこの定義は「炎」とも合致します。しかし、炎は進化しないので、生命ではありません。「進化」が数字で表記できないからです。よって、生命の特質だけを数学的に定義することは困難です。

P156
生体実験や経験を主とする現在の生物学に対して、純粋に理論だけで生命を研究するメタ生物学を提唱したい
これって、後述の本『波紋と螺旋とフィボナッチ』(近藤滋著、学研メディカル秀潤社)で近藤さんが書いていることと一緒だよね。

進化できる自己増殖機械」としての定義
経験的でなく、純粋理論的な「メタ生物学
生命の最も重要な点は、階層的に変化できる進化系だということであり、むしろ生命は変わりたがっていることになる

「生命」とか「進化」とか。アラマタさんが大好きで小さいころから考えていること。

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P157 引用

そういえば、数学もずいぶん進化しました。三千年前は整数を扱うのが精いっぱいでしたでしょうが、これに幾何学が加わり、代数学が加わり、集合論やら虚数やら、いろいろな「想像上の数」が加わり、最後にはプログラムやソフトウェアが開発され、文字どおり、藻類から知的生物の人間までが進化した生物に引けを取らない大発展を記録したといえるでしょう。

P159
(√2)はファンタジーである

「数学」について。この「ファンタジーである」っていうのも、理解されにくい比喩だなあ。(√2)がファンタジーというならば、虚数はなんだろう? アクロバットしないと。

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P182
『有害コミック撲滅――アメリカを変えた50年代「悪書」狩り』(ヴィジィッド・ハジュー著、岩波書店)

P187
読書の方法論にかんしてもっとも夢中にさせてくれた二人
梅棹忠夫、小松左京

『世界文化史大系』(H・G・ウェルズ著、世界文化史刊行会)

P188
『世界史概観』(岩波新書)

P189
『知的生産の方法』(梅棹忠夫、岩波新書)
いわゆる「京大カード」が有名になったけれど、忘れてならないのが知的生産に対する態度と方法だという。「さいとう・たかお」と「ゲーテ」を等価に扱う姿勢というか。さらに突き詰めていえば、「さいとう・たかお」も「ゲーテ」も面白ければ同価値だろうという考え方は、『知的生産の方法』が出る前には存在しなかったのだとも。パソコンのある今となっては、当たり前すぎて理解できないかもしれない。アーカイブスやネットから検索する行為が一般的でなかった当時のことは、今からでは想像もできないだろう。

P195
『現代人の読書』(紀田順一郎著、三一書房)

P198
フールスカップとは、印刷するための大きな原紙サイズのこと

『マンハント』
野坂昭如、片岡義男、植草甚一、田中小実昌、湯川れい子、大橋巨泉、
この雑誌に寄稿していた有名どころ。いいな。

P201
幻想文学の翻訳で
平井呈一に師事から紀田順一郎を紹介される
アラマタさんのおかしなところが、ここだろう。紀田順一郎に平井呈一を紹介されたのではない。平井呈一に紀田順一郎を紹介されたというのだ。平井呈一に師事したのはアラマタさんが中学生のときに手紙を出したのがきっかけだった。

P202
『知的生産の方法』(渡部昇一、講談社現代新書)

P205
ネット社会における「リスペクト」の喪失
原稿を上げることや締め切りを「納品、納期」と呼ぶ編集者がいるのだという。

P211
人生は相撲でいうなら7勝8敗まで持っていければ御の字です。

P215 引用

自分なりの幸せを安く買えれば、何も稼ぐ必要はない。
そういう意味でなら、本を読んで楽しむ、充実する一生は、幸せだと言いきれます。
いつしか、好きなことをやっているという幸せを得るためには、コストはほとんどかからないということがわかってきました。安心するようになったのです。
そういうことは、本を集めている人たちや、本を書いている師匠たちから教わったことです。

P227
『日本語大博物館 悪魔の文字と闘った人々』(紀田順一郎著、ジャストシステム)
「新しい日本語創造に命をかけた人たち」
ひので字

そういえば、ジャスト社のATOK開発に紀田順一郎さんが加わっていた。その頃、ジャスト社のある徳島に引っ越した人がいたような。

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P234 引用

いったい、教養主義的な読書がなぜ時代に合わなくなったのか。そういう現象を引き起こした私たち団塊の世代の気持ちを例に引きましょう。

P239 引用

そんなわけで、団塊の世代が教養文化の伝統に育まれながら、それを破壊するような方向を、数の力で押し通したというのは、事実でしょう。はっきりいって、好きなことだけしかしないオタクの原型です。
けれども、いったい何の因果でしょうか。その張本人の一人と自覚がある私が、ふたたび教養主義的な読書をみなさまにおすすめする立場に立とうとしているのです。いえ、むしろ、オタク文化全盛の今だからこそ、それを言わなければならないと感じます。

どうやら、↑ このあたりが本書の執筆動機、テーマでしょうね。「何の因果か」とか「教養主義的な読書」とか、現在のお年を召したアラマタさんの心境を推し量ると......。意外とノンシャラン(この言葉が使われていたのはいつ頃だったのだろう?)だったりして。

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P248
『一万年前――気候大変動による食糧革命、そして文明誕生へ』(安田喜憲著、イーストプレス、2014)
「年輪」ならぬ「年縞」
P253
『ワンダフル・ライフ――バージェス頁岩(けつがん)と生物進化の物語』(スティーブン・グールド著、早川書房、1983)
P257
『藻類30億年の自然史―藻類からみる生物進化・地球・環境』(井上勲著、東海大学出版会)
P263
『〈生きた化石〉生命40億年史』(リチャード・フォーティ著、筑摩書房)
アラマタさん、やっぱり生物学や進化が好きなのだな。

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P271
生涯の愛読作家
ロード・ダンセイニ
ニコラ・ステラ

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P283
『波紋と螺旋とフィボナッチ』(近藤滋著、学研メディカル秀潤社)
この本はすごい。

P292
「系譜」の誕生

P295
若い頃の梅棹さん(梅棹忠夫)がかかわった角川版『図説世界文化史大系』
文化史と謳ってますが、実際は「文明史」なんです。近代技術史なんです。

P301
北川三郎訳『世界文化史大系』H・G・ウェルズ

P306
SFとしてのヴォルテール『カンディード』

P308 引用

私は、心が暗くなるときは、この『カンディード』か『ドン・キホーテ』を読むことにしています。頭が本に占領されたときなどは、このうえない悪魔祓いと笑いを提供してくれるからです。

P317
幕末に紀州で暮らした川合小梅 日記
東洋文庫で全3巻。東洋文庫って高いんだよね。そうか、古書価格は暴落していたんだっけ。なんだかなあ。

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P318
岩波文庫で学んだ博物学
岩波文庫で読む古典って、注釈がわかりにくかったりする。

P320
『動物学』(アリストテレース、岩波文庫)
P321
『自然美と其驚異』(ジョン・ラバック著、岩波文庫)
自然を愛する人は生涯幸福であり、退屈もしない。
P322
『完訳ファーブル昆虫記』(林達夫・山田吉彦訳、岩波文庫)
P325
『ネーデルランド旅日記』(デューラー著、岩波文庫)
P326
『姓名の不可思議』(エルンスト・ヘッケル著、岩波文庫)
復刊して欲しい
P327
『自然認識の限界について 宇宙七つの謎』(デュ・ボア・レーモン著、岩波文庫)

予想どおり読みたくなる本が豊富だった。