湯けむり行脚/池内紀の温泉全書 池内紀 山川出版 2019年01月10日 第1版第1刷印刷 2019年01月15日 第1版第1刷発行 391頁 再読 |
著者のエッセイに、はずれなし。嵐山光三郎がTV番組の中で、池内紀さんはこじんまりとした家庭的な宿をいくつか大切にしている。別荘など維持が大変なので、そうした宿の方がいい。朝一番に原稿を書いてしまい、残りの時間をゆったりと過ごしているところが真似できないとも。本書で取り上げた中に、それはあったのでしょうか。
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それはそうだろう、とあとから思ったのですが、「温泉熱中時代」というものが著者にもあったらしいということが新鮮でした。そもそも最初のページにあるタイトルが「はしがき......温泉熱中時代の手帳から」とある。で、あるなら、今は温泉に熱中していないのだろう。それなら、何に今は熱中しているのかを知りたくなりました。
話をもとにもどすと、温泉に熱中していた期間というのが、「バブル経済」と呼ばれた時期の到来前だったのだという。以下、抜粋。
P4
昔ながらの湯治宿に似た宿がそこ、ここにあった。見つける目さえ盛っていれば、そして多少の不便をいとわなければ、簡単に行きあえた。そして時間がとまったような何日かを過ごすことができた。
ところが、1990年をはさんだ十年あまりで、大きく変貌を遂げ、ひなびた宿の対極になってしまった。なるほど。
で、なかみについて。
391頁と、分厚い。はじめからとおしてではなく、とばしとばし読む。ごく限られたこちらの知っているところ(実際に行ったのではなくとも、TVで見たところ)、地名くらいは知っているところ、ついでにその前後のページも、という読み方で、ゆっくり。著者の文体も、リラックスして読めるのでしょうね。
ひなびた温泉が廃れたからという理由だけで、温泉めぐりをやめたのではなく、ちょうど筆者の年齢も関係していたような気もするのですが。三十代半ばから五十代にかけてとあります。この働き盛りに、全国の湯に通ったというのは、なにか想像をさせられます。
車を使っていないというのも、特徴でしょう。鉄道とバスなどの公共交通機関。たしか、嵐山光三郎の話のもともとのテーマは、著者が小旅行のときに用いていた小型の背負い鞄だったような。お洒落でした。中の整理も行き届いていて。
著者が気に入った宿というのは、ほとんどが昔ながらの湯治客のいるところ。それなりの期間、自炊で過ごす。そりゃあ、バブル期に会社員が大挙した宴会ホテルの対極ですね。そして、今や廃業とか。
読んでいて、気になったのが、仕事が忙しく、東京に戻らざるを得ないというような記述。当時の年齢から、当然のことでしょう。逆に、そんな状況だったからこそ、の温泉めぐりなのかも。
中には、本当に自分でも行ったことのなる宿があり、面白かった。
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