夜の来訪者/岩波文庫 赤294-1 プリーストリー 作 安藤貞雄 訳 岩波書店 2007年02月16日 第1刷発行 170頁 |
知る人ぞ知るサスペンスの名作。英国の劇作家J.B.Priestleyが1946年に書いた『AN INSPECTER CALLS』。1921年、郊外のかなり大きな家の食堂のみを舞台にした戯曲。日本でも何度か演じられた。主人が娘の婚約者を招き、一家で祝しているところに、突然現れた警部が尋問を始めたことでドラマが起こる。ページ数も少なく薄い脚本なので、簡単に読めてしまう。
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BBCでドラマ化された放送を最初に見た。それから本書を読了。再度、映像、脚本ともに見直す。
冷静に読み直すと、ちょっと無理はあるような。解説によれば、作者プリーストリーは「従来、危険のない、パイプをふかしている脚本家というイメージでとらえられているが、じつは、政治的にははるかにラディカルであり、真に実験的な劇作家であった」とあるように、社会的なテーマをもった内容である。それだけに主人の娘シーラのキャラクター設定が良心的な気がする。(そういう役回りと言われれば、それまでだが)。
グール警部の存在は最後まで明かされていない。幽霊説まであるようで、ヘンリー・ジェイムス『ねじの回転』を想起する。警部が去った後、電話で警察署に確認すると、そんな警察官は居ないという。いったい誰だったのだ? グールと名乗った人物は。そこから、この作品の奥行きが増し、文学に変わる。この設定がなければ、単なる通り一遍のサスペンスで終わってしまう。
設定がいかにも英国らしくていい。来週には『タイタニック号』が出帆すると台詞にある。第一幕の冒頭説明によれば、食堂には当時の上等な、がっしりした家具。小間使いがデザート用の銘々皿、シャンパン・グラスなどを取り片付け、ポートワインのデカンター、葉巻の箱、巻きタバコなどを並べている。五人とも、当時の型の夜会服を着用。男性はタキシードではなく、白ネクタイに燕尾服。あくまでもディテールだけでいえば、BBCによる映像の方が、きれいでよかった。
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