[NO.1433] ミライの授業

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ミライの授業
瀧本哲史
講談社
2016年06月30日 第1刷発行
261頁

瀧本哲史が2015年に灘中学や福島県飯舘村立飯舘中学校などで行った講義録。14歳が未来に向けて、どう生きていったらいいのか。特に冒頭のガイダンス、「きみたちはなぜ学ぶのか?」が秀逸。たとえ話がわかりやすい。この「ガイダンス」だけでも読む価値がある。

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本書の特徴は、現在のブログをそのまま紙面に載せた形式をとっているところにある。各章ごとに挙げられた簡潔なタイトル、本文にはアピールしたいセンテンスに黄色でマーカーがしてある。(色使いが黄色一色というのも特徴)。カットも適宜挿入してある。これがカラー写真だったなら、ブログのアイキャッチ画像とかわらない。章末には箇条書きで「まとめ」としているところは、まるで参考書のよう。

巻末には「ミライの図書館」として、19冊を紹介。また、参考文献を59冊。特徴は、投資家瀧本氏だけに、ビジネス書風の選書も。

現在の日本で、14歳が置かれている状況の説明から入っている。これまで散々言われてきた大きな変化、そして大人は過去の経験に引きずられてしまい、若者へ的確なアドバイスが言えなくなっている。

そこを筆者の得意なレトリックを駆使し、論旨を展開している。

中学生の保護者が子ども部屋に備えていたミニコンポ(ラジカセではない)、雑誌、ゲーム機などが、今やスマホ一台で代用できている例は、いかにも現代風だ。

論旨を展開するについて、一人ずつ有名な思想家をとりあげているのも特徴の一つ。最初がニュートン。ここでポイントは、ニュートンは「木から落ちるリンゴを見て、万有引力の法則を発見した」とせずに、「微積分(微分と積分)学という「新しい数学」を発見した」としているところ。自然現象を数学で把握したという視点。

p36
ニュートンは、こうした運動や力に関する法則を、微積分学という「新しい言葉」で説明してみせました。/ニュートンは、数学によって世界を読み、数学によって世界を変えたのです。

ここで急に想起したのが、『詩的私的ジャック』(森博嗣著、講談社文庫)の中の次のところ。

p113
「不思議なことって、あまり日常にないでしょう?」
「勉強すれば沢山あることがわかるよ。わかっていないことばっかりなんだ。ただ、みんな、不思議を見逃しているだけだよ。ブーメランがどうして戻ってくるのか、ヘリコプターがどうして前進するのか、工学部の学生だって誰も知らない」
「あれはジャイロ効果でしょう?」萌絵が言う。「それくらい知っています」
「コサインカーブを積分するとサインカーブになるね。これが、ブーメランが戻ってきたり、自転車が倒れないメカニズムの答だ。このことにどれだけの人が気がついている? 高校の先生は教えてくれないだろう?」
「高校の先生は知らないでしょうね」

小説の中での工学部3年生と准教授の会話だが、このエピソード(たとえ話)を中学生だって直感でとらえられそう。逆にいえば、『ミライの授業』の対象読者は中学生ではなく、大学生であることになってしまう。ニュートンの次に扱う思想家は「フランシス・ベーコン」なのだ。

著者瀧本哲史氏は中学生相手であっても、p20「本講義の根底に流れるのは、ふだんわたしが京都大学の学生たちに向けて語っているのと同じテーマであり、問題意識だ」ともいっている。

ただし、本書をとおして一点だけ中学生対象を考慮している気がしたところ。

p61
いいですか、「人」を疑うのではなく、「コト」を疑うのです。この「人とコト」を切り離して考える習慣をつけておきましょう。
p99
すべてを信じるな、すべてを疑え、とは言いません。いま、みさんに求められているのは「人を疑うのではなく、コトを疑う力」なのです。

二度も繰り返しているのは、ここくらいだった。

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いかにも学校現場とは違った視点が次のくだり。

「仮説」を立てることが大切であるという主張のところで、では、どんな仮説を立てたらいいのか。学校の先生からは出にくい言葉が紹介される。

p106
そんな競争の激しい世界に飛び込んでいくのは、あまり得策とはいえません。ライバルがひしめくなかで、手を挙げても、「その他大勢」になってしまうだけ。自分よりも優秀な人たちがいる可能性も高いでしょう。
みんなが素通りしている「空白地帯」に目を向けていれば、いつしか自分だけの花を咲かせることができます。

具体例がいかにも中学生にとってキャッチ-。みんなが海を眺めているときには砂浜の貝殻を。ラーメンの麺やスープではなく器を。英語や中国語ではない、まったく未知の語学を。オリンピック正式種目ではない、名前さえ聞かないようなスポーツを。

次の項目も、思い込みの激しい思春期に向けた風。

p133
そして仮説は、時代や状況の変化に応じて柔軟に対応していく。

エジソンが円筒型の蝋管蓄音機蓄音機で、声の録音にばかり固執したため、円盤型で音楽を録音対象にする時流変化に対応できなかったとのこと。

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変革者として挙げている例

01 アイザック・ニュートン
02 フランシス・ベーコン
03 ヘンリー・フォード
04 フローレンス・ナイチンゲール
05 高木兼寛
06 森鴎外
07 コペルニクス
08 クリストファー・コロンブス
09 大村智
10 ビル・ゲイツ
11 トーマス・エジソン
12 嘉納治五郎
13 ベアテ・シロタ・ゴードン
14 ココ・シャネル
15 伊能忠敬
16 マーガレット・サッチャー
17 グレゴール・メンデル
18 J・K・ローリング
19 緒方貞子

このリストからだけでも、十分に変則的な並びであることが感じられるだろう。それぞれの人物のどの面にスポットを当てるかによって、評価が大きく変わってしまう。森鴎外は有名な脚気の原因をめぐる話。ココ・シャネルは最近、ナチス協力者として取り上げられたが、女性の自立としての例。J・K・ローリングを取り上げるのは、ハリポタの評価とは切り離している。瀧本氏の手にかかると、こうも違うのか、と思う。