[NO.1421] 本の花

honnnohana.jpg

本の花
平松洋子
本の雑誌社
2013年12月05日 初版第1刷発行

本の雑誌社から出ているものの、初出一覧を見るとほとんどが他誌に書いたものばかり。(書き下ろしもありますが)。「じっと手に取り続けている十冊の本」のみ、本の雑誌掲載。「食の奥深さを味わう文庫十冊」が『本の雑誌増刊 おすすめ文庫王国1012』掲載。全部で88ある中の2つ。

十代で寺山修司と交流があったという文がありました。

p177
『野を駆ける光』虫明亜呂無(ちくま文庫)
その名前をはっきり脳裏に刻んだのは一九七七年、寺山修司によってだった。

新宿紀伊國屋書店の階上にあった喫茶店「ながい」で寺山さんに会ったとき、「虫明亜呂無とおれと、どっちがいいと思う」と聞かれたのだといいます。いったいどんな交流があったというのか。
「その日も大の気に入りの高さ十センチ近いジーンズ生地のぽっくりサンダルをつっかけ、さらに高くした長身をかがめながら「やあ」と入ってきた。」寺山修司氏。裾は大きく開いていたことでしょう。「高さ十センチ近いジーンズ生地のぽっくりサンダル」に、こちらは反応してしまいました。朝の混雑した四ッ谷駅で、「高さ十センチ近いジーンズ生地のぽっくりサンダル」が脱げてしまったという知人の話を思い出します。人混みが移動したホームに、残されたサンダルがころがっていたとのこと。

著者はこのことがきっかけとなって、虫明亜呂無を読むようになったといいます。そういえば、TVでお顔を見たことがありました。なんとも不思議なペンネームだと思った記憶があります。今日泊亜蘭というSF作家もいましたし。
小林信彦氏の仲人だというので気になっていましたが、多くは読みませんでした。

日本語変換ソフトATOKで虫明亜呂無が変換できなかったことに驚きました。
それに対して、というのも変ですが、つぎの著者名は一度で変換しました。
p138
『木挽町月光夜噺』吉田篤弘(筑摩書房)
紹介文がうまい。味があります。吉田篤弘氏のひいおじいさんである音吉さん、昔、銀座の木挽町で鮨屋をやっていたのだとか。そのことを書く平松洋子さんの文章が私小説風エッセイになっています。

ここには書かれていませんが、吉田篤弘氏はクラフト・エヴィング商會のお一人。クラフト・エヴィング商會の装釘した本は格別です。

p249
『「おじさん」的思考』内田樹(角川文庫)
つかみから上手い。青森の居酒屋での出来事。平松洋子さんが選考委員を務めている伊丹十三賞での内田樹氏のスピーチ。そこから伊丹十三編集長が1980年に創刊した雑誌『モノンクル』のこと。さらに伊丹十三と岸田秀の対談集『ものぐさ精神分析』のこと。さらに内田樹氏の青春時代のこと。つづきます。

■   ■   ■

どれもこれも一編ごとに構成に工夫がされて、単なる本の紹介に収まらない作品にしあげられています。