[増補]二十世紀を騒がせた本/平凡社ライブラリー290 紀田順一郎 平凡社 1999年06月15日 初版第1刷 |
こういうことってあるの? 枕頭の愛読書である『書斎のポ・ト・フ/潮文庫213』(開高健 向井敏 谷沢永一 著/潮出版社/昭和59年07月16日発行)と表紙が同じアルチンボルト。いつもは手元に置く本の表紙カバーは外してしまうので、表紙は散逸してしまうのがほとんどなのに、かなり傷みながらもまだ残っています。カバーデザインは杉浦康平とあります。調べてみると『書斎のポ・ト・フ/潮文庫213』はその後、筑摩文庫に入って表紙も別のものとなっていました。それにしても、同じ絵というのには驚きました。
最初の章「二十世紀を騒がせた本」が全体のダイジェストのような内容です。その後、章立てて1冊ずつ紹介しています。そのあたりの関係を草森紳一氏が解説で触れていました。
まず二十世紀に影響を及ぼした本ではなくて、「騒がせた本」というのが目をひきます。草森氏は具体的には触れずに次のように書いています。
「騒がせた本」とは、紀田順一郎の創り出した概念である。その序で、「二十世紀を騒がせた本」は「膨大な数にのぼる」としてつぎつぎと博大に列挙していて目がまわるほどだが、その中から十一点に絞り込むのは、見識というより真剣なる遊びにならざるをえない。
さて、この後の草森氏の文章が面白いところ。
選ばれた作品は。知識人の間でのみ騒がれた本は『夢判断』をのぞけば、注意深くオミットしている。それが「二十世紀」への彼の考えかたであり、彼の柔軟にして真摯な思想《あそび》(生きかた)である
目次から
二十世紀を騒がせた本――オーウェル『一九八四年』ほか......9
ユートピアの消滅/『資本論』に支配された時代/"性"を明るみに出した書物/オルテガ『大衆の反逆』の予見性/ルィセンコ事件の苦い教訓/プルースト『失われた時を求めて』の衝撃性/二冊の「革命の書」の運命/『存在と時間』から『バラの名前』まで
第1章とそのあと選んだ本との違いが推察されます。「哲学、経済、社会科学、思想分野の問題作がはずされている」
具体的に選ばれた本を目次から
心の不思議――フロイト『夢判断』
民族の憎悪――ヒトラー『わが闘争』
現代の黙示録――ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』
過酷なる名声――ミッチェル『風と共に去りぬ』
狂った遺伝子――ルィセンコ『農業生物学』
神と人類の敵を告発――アンネ・フランク『アンネの日記』
他者の反逆――ボーヴォワール『第二の性』
迫り来る雪崩――カーソン『沈黙の春』
地の塩への信頼――ソルジェニーツィン『イワン・デニーソヴィチの一日』
革命の小さなマニュアル――毛沢東『毛沢東語録』
冒涜[「涜」が旧字体]の迷宮――ラシュディ『悪魔の詩』
草森氏の方はその後、(紀田順一郎氏が)選んだ「騒がせた本」とは大衆が読んで騒いだ本ではなく、むしろ読まれなかった本だと続けています。「たとえ題名を知り、評判につられて買ったとしても、少し覗いただけで読むのをやめた本である。」
このあたりが草森氏のテクニック。
ちなみに、この文庫のために[増補]で書き下ろし追加したのは『アンネの日記』だといいます。新聞にいろいろニュースとして取り上げられたことを思い出します。
2018年の今から判断すれば、ルィセンコの名前が珍しい。イスラムの世紀といわれることもある今世紀、ラシュディの事件は重い。
全部の章の中から選ぶとすれば、第1章「二十世紀を騒がせた本」を挙げます。他の章では割愛した「哲学、経済、社会科学、思想分野」が入っているからです。とりあえず、この章で記載された作者名・作品名(次章以下で既出の名前を除く)を挙げてみます。
ウィリアム・モリス『ユートピアだより』1890/ベルジャーエフ/ハクスレイ『すばらしい新世界』1932/オーウェル『一九八四年』1949/トマス・モア/ラスキン/マルクス『資本論』1867~94/ダーウィン『種の起源』1859/ロバート・ダウンズ/マキャベリ『君主論』1513頃/トマス・ペイン『コモン・センス』1776/スミス『国富論』1776/マルサス『人口論』1798/ソロー『市民としての反抗』1849/ストー夫人『アンクル・トムズ・ケビン』1852/サド/ドストエーフスキイ/ロマン・ロラン/ヘンリー・ミラー/マリノウスキー『西太平洋の遠洋航海者』/レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』/ヨハン・ホイジンガ『中世の秋』『ホモ・ルーデンス』/アラン・コルバン『浜辺の歴史』/オルテガ・イ・ガゼット『大衆の反逆』/エンゲルス/ラマルク/メドヴェジェフ/アレクサンドル・ソルジェニーツィン『収容所群島』/サマセット・モーム『読書案内』1960『世界の十大小説』1954/クリフトン・ファディマン『一生の読書計画』1960/中央公論社編、中島健蔵、臼井吉見、北村喜八ら『二十世紀前半の世界十大小説』1954/マルタン・デュ・ガール『チボー家の人々』1940/ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』1912/ジョイス『ユリシーズ』1922/プルースト『失われた時を求めて』1913~27/トーマス・マン『魔の山』1924/魯迅『阿Q正伝』1921~22/ショーロホフ『静かなるドン』1928~40/島崎藤村『夜明け前』1929~35/スタインベック『怒りの葡萄』1939/志賀直哉『暗夜行路』1921~37/ジッド『贋金づくり』1926/ゴーリキー『母』1907/リルケ『マルテの手記』1910/サルトル『自由への道』1945~49/ロマン・ロラン『魅せられたる魂』1922~33/トーマス・マン『ブッデンブローク一家』1901/ジッド『狭き門』1909/ドス・パソス『U・S・A』1930~36/夏目漱石『こゝろ』1914/カフカ『審判』1925/フォークナー『響きと怒り』1929/ムージル『特性のない男』1930/ジュール・ロマン『善意の人々』1932~46/ボルヘス『伝記集』1944/ヘンリー・ミラー『北回帰線』1934/カミュ『異邦人』1942/エリッヒ・マリア・レマルク『西部戦線異状なし』1929/パール・バック『大地』1931/クローニン『城砦』1937/デュ・モーリア『レベッカ』1938/ハイデガー『存在と時間』1927/ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』1904~05/ルカーチ『歴史と階級意識』1923/マンハイム『イデオロギーとユートピア』1929/フロム『自由からの逃走』1914/サルトル『存在と無』1943/フランクル『夜と霧』1947/ブロッホ『希望の原理』1954/フーコー『言葉と物』1966/コリン・ウィルスン『アウトサイダー』1956/トロツキー『裏切られた革命』1937/マルカムX『マルカムX自伝』1965/ケインズ『雇用・利子・貨幣の一般理論』1936/サミュエルソン『経済分析の基礎』1947/マクルーハン『人間拡張の原理』1964/ガルブレイス『新しい産業国家』1967/アインシュタイン『一般相対性理論の基礎』1915/ウィーナー『サイバネティクス』1948/マンフォード『機械の神話』1967/ブルトン『シュルレアリスム宣言』1924、29/メイラー『裸者と死者』1948/ゲオルギウ『二十五時』1945/ナボコフ『ロリータ』1955/バタイユ『エロティシズム』1957/パステルナーク『ドクトル・ジバコ』1957/サマセット・モーム/グレアム・グリーン/アガサ・クリスティー/エラリー・クイーン/ダシール・ハメット/レイモンド・チャンドラー/ジョルジュ・シムノン/ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』1980/コナン・ドイル/ルブラン/ハインライン/ブラッドベリ/アシモフ/クラーク/
コメント