[NO.1376] レンズが撮らえた19世紀英国

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レンズが撮らえた19世紀英国
海野弘
山川出版社
2016年8月23日 第1版第1刷発行

山川出版のミニムック本。出版社サイトに目次あり。リンクはこちら

パラパラとめくって見ていて楽し。ロンドンがもっと多くてもいいかと思う。英国の地方が発展していく過程を写真で見られるのはいい。日本の大衆化がこの頃に起きていた様子が見られる。地方の発展は鉄道網の整備によるという。なるほど。休暇で人々が出かける観光地の様子など、100年後の日本みたい。

歴史で勉強したような内容や小説で有名になった様子が写真だと見てわかる。

南方熊楠、夏目漱石、高村光太郎のお三方が留学した場所の写真もあり。熊楠と漱石は人口に膾炙していても、高村光太郎の留学というのはこうして取り上げられることの少なかっただけに、おやっと思った。熊楠が喧嘩をして出入り差し止めとなった大英博物館の図書閲覧室写真(1903年)が面白し。お金を取って幸田露伴が勉強に通ったという上野の図書館はこれのミニチュア版だったのだろう。なるほどと思う光景。

「パクス・ブリタニカ」の繁栄と暗雲という項目立ても面白し。そうだよね。

簡単に言ってしまえばホームズものの背景がピンとくる。ホームズものの大半は海外植民地で一旗揚げる過程で事件を起こした関係者が英国に帰ってきたところに、裏切られた仲間が押しかけてきて事件を起こすストーリーが多い。

もっとも、霧に煙るロンドンの生活ぶりを写真で目にしているだけで面白し。

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他に興味深かったのが上流階級の人々についての記述(P50~)
「王族を支える貴族とジェントリ」。近世までは同義語だったというジェントルマンと貴族の違いが面白し。

産業革命以降の社会変化により、上流階級は「貴族」と「ジェントリ」からなり、ジェントルマンという場合は、これに中流階級の上と中くらいまでが含まれるようになったという。

ここでいうジェントリとは爵位のない大地主のことで、法的には決まっていなくても、貴族とジェントリの所有地が一万エーカー(四千二百坪)を下ることはなかったので、そのあたりを目安としてよいとも。

また、貴族とジェントリの違いは爵位の有無だけでなく、労働をするか否かにもあった。営利目的で仕事をするのがジェントリで、それを一切せず、地代収入だけでやりくりすののが貴族のあるべき姿だという。

※上流階級(人口比2~3パーセント)
【貴族】
公爵(Duke)→侯爵(Marquess)→伯爵(Earl/Count)→子爵(Viscount)→男爵(Baron)
【ジェントリ】
准男爵(Bsronet)→勲爵士(Knight)→エクスワイヤ(大土地所有者)

↑ 明治期にこうした制度を輸入するにあたり、いったいどのような考えでネーミングをしたのだろうか。日本の制度も同じ呼び名だったっけ?

ヴィクトリア女王とその9人の子供たちについて、各写真あり。また、9人の子供たちの成人後の肩書きや嫁ぎ先一覧も。女性はドイツをはじめ、ヨーロッパ王族へ嫁している。

貴族、使用人(各種)の写真あり。身分の高い主人に仕えた各種使用人の呼び名を解説した本があったが、ここではコンパクトに写真と短い説明。

面白かったのが屋敷について。カントリーハウスと呼ばれる地方の屋敷。日本に残る洋館のお手本になった大本だけあって、規模が大きい。