[NO.1369] 気になる日本語/本音を申せば

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気になる日本語/本音を申せば
小林信彦
文藝春秋
2011年5月15日 第1刷発行

記録にはないのだが、どうも既読のような気がしてならない。読んでいて、以前にも目にしたような内容が続く。

初出 「週刊文春」2009年12月31日・2010年1月7日号~2010年12月23日号 「週刊文春」連載エッセイ13冊目。2010年(平成22年)分。

ここまでの刊行分

1「人生は五十一から」文春文庫
2「最良の日、最悪の日」文春文庫
3「出会いがしらのハッピー・デイズ」文春文庫
4「物情騒然。」文春文庫
5「にっちもさっちも」文春文庫
6「花と爆弾」文春文庫
7「本音を申せば」文春文庫
8「昭和のまぼろし」文春文庫
9「昭和が遠くなって」文春文庫
10「映画×東京とっておきの雑学ノート」文春文庫 '11年7月刊
11「B級の品格」文藝春秋
12「森繁さんの長い影」文藝春秋
13 本書 文藝春秋

この中で未読は3冊か?

ペシミスティックな気分で時の政治、ジャーナリズムへの記述を挟んで、映画と本書タイトルにある日本語表現の変化についての日記のようなものが続く。

p24
休みを利用して(成人の日)、ぼくは堀切の万年筆修理屋さんに出かけた。新聞その他で知っている読者もいると思うが、ぼくは二、三回、お世話になっている。
この人にペン先を調節してもらった万年筆を十数本ほどもっているが、十数本持っていても実際に使うのは、太書きと細書きの二本だけである。これはぼくの性格の問題だ。

キーボードに凝る自分と似ている。実際に使うのは二種類というのがわかる。

p26
小沢昭一さんの「わた史発掘 戦争を知っている子供たち」(岩波現代文庫)を読んだ。
いま、世間の人が小沢さんをどういう風に眺めているのか、ぼくにはわからない。若い人はなんだかわからないが、ハモニカを吹いたりする、ソフトな老人という風に見ているのではないか。もう少し上の人だと、軟派芸人と見ていると思う。小沢さんみずからが、そんな風にふるまってきたからである。(途中略)
本の前半は幼年時代の想い出であるが、ぼくにとって面白くなるのは後半だ。麻布中学の三年生だった小沢少年は江田島の海軍兵学校の試験を受ける。それまでの海軍兵学校(「かいへい」とふりがな)は(旧制)中学4年、五年から受けるものだったが、小沢さんの時から採用年齢が引き下げられた。(途中略)だが、その年の八月、日本は降伏し、小沢少年の人生は大きく狂い始める。

麻布に招かれ、真っ白な制服で後輩の前に立ったのだと、当時中学生だったどなたかの文章で読んだ記憶がある。小沢氏いわく「あまり語りたくない過去」。
晩年、機会があって滑り込みセーフで「ハーモニカ」実演つきの口演を見たことがある。忘れられない。TVで何度も見たことがあったが、やはり本物は違い、泣いてしまった。

p32
世の中には、ぼくが双葉さん(双葉十三郎さん)と近いところにいると誤解している人がいるらしいが、双葉さんもぼくも個人主義者で、徒党を好まないから、言葉を交わすこともない。

だから売れないのではないのだろうか。

p40
適当な時に、映画の途中からフラリと入って、次の回のあ途中まで観る、とか、空席がなくても立って観る、といったことが、法規なのか何なのかできなくなった。これ(「これ」に傍点)で映画館はかなりの観客を失っていると思われるが、そのことを注意する人はすくない。

いつからこうなってしまったのだろう?

p104
この年はもう一つの大空襲があって、五月二十五日に山の手から北多摩群まで焼夷弾が落とされた。
誰がなぜやったかは、ぼくの年代の人間なら知っているはずだが、五十歳以下の人は知らないのではないか。
(途中略)
チャーチルの発想は強引だったドイツ軍が粘るのは、眠る場所があるからだ。いっそ、彼らが眠る建物を破壊してしまえばどうだろうか?
こうして、イギリスの爆撃軍団はドイツ東部の美しい都市ドレスデンを二日にわたって波状攻撃することになる。この爆撃の凄さはカート・ヴォネガットの小説「スローターハウス5」に描かれているが、途中からアメリカも攻撃に加わり、ドレスデンは一週間近く燃え続けた。(途中略)
その前年の八月、アメリカ軍のカーティス・E・ルメイ少将は(途中略)もう少し書くと、昭和三十九年十二月にルメイに勲一等旭日大綬章を贈ったのは、佐藤栄作総理、。小泉純也(純一郎の父)防衛庁長官だ。理由は「日本の航空自衛隊の育成に協力したから」だという。

ルメイの名は、他でも紹介している。

p176
呉智英氏の「言葉の煎じ薬」(双葉社)を買って見ると、

この本、どこに紛れてしまったか? まだ処分していなかったはず。

p245
故トリュフォー監督が日本にきた時、テレビで映画を観ていて(トリュフォー作品ではない)、そこに何かのテロップが出て、怒り狂ったという話を読んだことがある。

至極もっとも。

表紙絵は弟さん。