[NO.1323] 本は友だち

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本は友だち
池内紀
みすず書房
2014年12月22日 印刷
2014年1月9日 発行

池内紀氏によるエッセイの中でも、特に本に関する内容なので読み応えがあった。

■みすず書房による本書についてのサイトが2つ見つかった。こちらこちら。目次がしっかり記述されている方がいいのだが、本書についてならば、巻末「とりあげた本の一覧」が掲載されているのが一番いい。

54冊。

■チャペック

p42
それに社会生活に欠かせない要素は、自分の愚かさを隠すことではないか。とすると自分の意見の扱い方が決まってくるだろう。慎重をモットーにして、用心深く胸の奥にしまっておく。どうしても出さなければならなくなったときの出し方。チャペックによれば、「そっと、そっと!」出すこと。つづくしめくくりが辛辣だ。
「自分の意見よりさらに悪く、ナンセンスで、使いふるしの、俗悪な意見がただの一種類だけあります。それが世論です」
チェコはヨーロッパの小国であって、たえず隣接の国々の横暴に苦しめられてきた。よそから権力者がやってくる。うかつに「自分の意見」を口にすると、いかに危険であるか、このチェコ人はよく知っていた。情報の操作のままに作られる「世論」なるもののウソくささ。チャペックの人間の見方は、骨身に徹するまでに底が深い。

「Ⅰ 会いたい人と会うように」
本の紹介。読めば、どれも手に取ってみたくなる。
■江藤文夫『江藤文夫の仕事4 1983-2004』全4巻 影書房・2006年
■杉浦日向子『百物語』新潮文庫・1995年
■辻征夫『辻征夫詩集成 新版』書肆山田・2003年
■池田晶子『14歳からの哲学 考えるための教科書』トランスビュー・2003年
■森浩一『僕と歩こう 全国50遺跡 考古学の旅』小学館・2002年
■岡本武司『おれ にんげんたち デルスー・ウザラーはどこに』ナカニシヤ出版・2004年
■木田元『新人生論ノート』集英社新書・2005年
■ヴェンセスラウ・デ・モラエス『モラエスの絵葉書書簡』岡村多希子訳 彩流社・1994年
■カレル・チャペック『カレル・チャペックのごあいさつ』田才益夫訳 青土社・2004年
■シャック=ルイ・メネトラ『わが人生の記 十八世紀ガラス職人の自伝』喜安朗訳 白水社・2006年
■部金吾・工藤祐舜著、須崎忠助画『普及版 北海道主要樹木図譜』北海道大学出版会・1988年
■中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』岩波新書・1996年
■坂崎重盛『ぼくのおかしなおかしなステッキ生活』求龍堂・2014年

「V 解説をたのまれて」
■半藤末利子『漱石の長襦袢』文春文庫・2012年
「筋金入りのリアリスト」が書いた漱石。漱石山房移築にまつわるケチな門下生。小宮豊隆とは書いてないが、漱石文庫創設の経緯も。
初めて家に風呂が出来たときのエピソードもおかしいが、幼い娘に罵倒されるところがよかった。
p188
幼い娘たちが遊んでいる部屋に顔を出した漱石が「猫なで声を出して話しかけ」たあげく、娘から「アバタ面なんか、あっちへ行ってろ」とどなられたこと。
夏目漱石がエライのは、多くの名作をのこしたせいではないだろう。幼いわが子にどなられてスゴスゴ退散する父親を、つねに半身にそなえていたからである。そのうしろ姿を見ていた入の証言を、イキな長襦袢とともにあざやかに甦らせた。孫娘一世一代の力業である。

■篠田一士『三田の詩人たち』講談社文芸文庫・2006年
ときどき思い出す。篠田一士は柔道少年だったという説明に納得。

■岩本素白『素白随筆遺珠・学芸文集』平凡社ライブラリー・2009年
この人の紹介する岩本素白にはいつもそそられる。

■森於菟『耄碌寸前』みすず書房・2010年
著者は(鷗外の子供たちの中、)「家庭人鷗外の遺産というなら、第一に森於菟だと--少なくとも私は考えている」のだという。