[NO.1270] お言葉ですが... 別巻1

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お言葉ですが... 別巻1
高島俊男
連合出版
2008年5月25日 第1刷

中国語でいうところの「工具書」についての説明が楽しい。もっとも紹介しているご本人が一番楽しそうだ。
高島さんは読み物よりも、こうした調べ物をするための本がお好きなのだという。手元に置いておく「工具書」がたまるばかりだとも。日本語には「工具書」にふさわしい訳語がないという。
今やネットワーク上にこうした類のものが氾濫している。ところが一歩突っ込んだ内容を調べようとすると、無料というわけにはいかない。さらに調べごとを進めると、本に当たらなくてはならなくなる。申し訳ないが、いつかはオンライン上で検索できるようになってくれるといい、などと思ってしまう。

p97
「「工具書」のはなし」から引用
『漢文のすゝめ』(原田種成著・新潮選書)所収「諸橋『大漢和辞典』編纂秘話」が
おもしろい。
小型のものでは『角川新字源』が断然よい。わたしは昭和四十三年に買っていまだに愛用している。もっとも当時とまったく同じものがいまも出ているかどうか知らない。こういうものはあとになるほど時勢に迎合して悪くなる。
一つ一つの漢字についてしらべるなら『支那文を讀む爲の漢字典』である。昭和十五年に文求堂の田中慶太郎が松枝茂夫に嘱して作ったもので、いまは山本書店が出している。七十年たっていまだに同類のものができない。実によくできた辞書で、これも何冊も買ってあちこちに置いてある。

p103
一つ一つの漢字の意義を見るにはさきに行った『支那文を讀む爲の漢字典』が簡便的確でよいのだが、その本格的なものというと『康煕字典』ということになる。
去年北京へ行った際、つれの一人が横組みの康煕字典(漢語大詞典出版社)を買った。見せてもらうと、これが印刷鮮明で実に見やすい。小生従来つかっていたのはむかしの刊本の影印本(写真版)で、一行の字数が多すぎて目がどこへもどってよいらやチラチラし、使いにくいしろものであった。

制度については百瀬孝『事典 昭和戦前期の日本 制度と実体』(吉川弘文館)。よくできています。実に有用だ。戦後の巻もあるが、やはりすっかり変っちゃって調べないと判らないのは戦前です。

戦前についてとなると、どうしても高島さんにとっても「すっかり変っちゃって調べないと判らない」のか。この先、さらにわからなくなってゆくのだろう。いったいどこで、だれがそういったことを残せるのだろう。
グローバル化も重要だろうが、こうした類は失われるばかりだ。

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p124「戦う集団の戦わない人たち」
こんな視点は考えもつかなかった。昔の中国では実際に武器を取って戦う兵隊はだいたい一割程度であるという。一番人数が多いのは、武器、食糧、衣類、車輛、馬匹、日用品等の、買いつけ、保管、運搬、補修にあたり、さらに宿泊地の設営や馬の世話、炊事などをする雑役夫たちであるという。そのほかに集団成員の家族である女や子供が相当数いる、とのこと。
ところが江畑謙介『これでわかった世界の新秩序と軍事力』(一九九二年PHP)を読むと、戦闘員と背後の支援要因とのは同じような比率なのだという。

このほか、「少尉任官は死刑の宣告」も面白し。西洋では士官の死亡率がきわめて高かったと述べたあと、「わが国旧軍の将校と兵との死亡率はどうだったのだろう。」としめくくっている。

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もっとも面白かったのが「戦後国語改革の愚かさ」だった。【参考資料】「戦後略字・正字対照表」が便利。これだけでも価値有り。