海馬 脳は疲れない!/ほぼ日ブックス第2弾 1 池谷裕二、糸井重里 朝日出版社 2002年6月20日 初版第1刷発行 2002年7月31日 初版第3刷発行 |
最近読んだ中でもっともスリリングだった。どなたかの感想に元気がわいてくる云々とあったが、なるほどと思えるくだりがあった。「ストッパーを外す」という表現。脳は2パーセントしか働いていない。誰でもがまだまだ可能性を残しているという。
池谷氏の純粋なところ、面白し。学生時代、数学の試験の度に法則を作り出していたという。今でもかけ算九九は覚えていないのだとも。徹底している。あくまでも暗記ものは拒否する姿勢がかっこいい。
夢はなぜ見るのか? なんだか思い返すたびに、不思議な気分になる。
p74
実は、夢は「記憶の再生」なんです。その証拠に、フランス語を喋れないぼくが、フランス語をペラペラしゃべる夢を見ることは絶対にない。記憶がないから。
夢には、「記憶にあるもの」しか出ない。
ただ、いろいろな組み合わせをしているのです。トライとエラーのくりかえしですけど、無意識では常にそんなことをやっています。p197
池谷 前略。
海馬はもちろん起きている時にも十分活動をしているんですけど、寝ているあいだにものすごく活動するのです。だからもう四六時中はたらいているんですけども、眠っているあいだには何をしているかと言うと、夢をつくり出しています。
糸井 海馬が夢をつくり出すんですか?
池谷 厳密に言うと海馬を含めた脳全体が関与していますが、海馬は「今まで見てきた記憶の断片を脳の中から引き出して夢をつくりあげる」という働きを担っています。
夢というとどうしても幻想的なイメージがありますけれど、実際はそんなことはありません。ネズミで実験してみるとわかります。その日にあったことが、たいていその直後の夢の中で思い出されているんですね。海馬の神経に電極を埋めてネズミを眠らせると、起きていた時にはたらいていた部位が、夢の中でも反応している......つまり、その日にあった出来事をくりかえしているんです。
朝起きて覚えていられる夢は一%もない、と言われるぐらいです。もし覚えていたら日常と現実の区別がつかなくなって、生活が送れなくなる危険性があるのです。しかも夢というのは、記憶の断片をでたらめに組み合わせていく作業です。ぜんぶを憶えていたら、前後の区別のつかない人間になってしまう。
糸井 夢のあいだに起きていた時の記憶を引き出して、海馬はいったい何をしているんですか?
池谷 情報を整理しています。睡眠はきちんと整理整頓できた情報をしっかりと記憶しようという、取捨選択の重要なプロセスなのです。だから「夢を見ない」というか「眠らない」ということは、海馬に情報を整理する猶予(ゆうよ)を与えないことになります。つまり、その日に起きた出来事を整理して記憶できなくなってしまう。
ですから、睡眠時間は最低でも六時間ぐらいは要ると言われています。もちろん個人差はあるのですが、六時間以下の睡眠だとのうの成績がすごく落ちるということは、ここ二年ぐらいのあいだに科学的な証明がなされました。
途中略
糸井 眠っているあいだ、海馬はどうやって記憶を整理するのですか?
池谷 海馬の神経細胞はぜんぶで一○○○万ぐらいありますが、それに仮に一、二、三、四......と番号を振ったとします。今ぼくは二番と五番を使って話しているとしますよね。そうしたら今夜寝ているあいだには、「朝は一番を使ったなぁ。夜中には四番を使っていたな、夕方には二番と五番を同時に使って糸井さんと話をしていたよな」と思い出しながら、急に二番と四番をつなげたり、二番と一番をつなげたり......新しい組み合わせを作り出してみるんです。それで整合性が取れるかどうかを検証しているようなのです。そのあいだに眠っている必要がなぜあるかと言うと、外界をシャットアウトして、余分な情報が入ってこないようにして、脳の中だけで正しく整合性を保つためです。
糸井 それって、すごく大事なことですね、眠ることも大事な仕事として位置づけるのが、これからの課題ですね。
池谷 ええ。「どんなに忙しくても、睡眠をとらなければいけない」という事実が、すごいなぁと思いますよ。人生七五年で平均七時間睡眠だったとしても、二二年近く眠っていることになります。
やりたいことに追われている人にとっては、一見すごくムダな時間に見えるけれども、睡眠がないと人間がぜんぜんだめになってしまう。強引に睡眠を奪ったとしたら、海馬は記憶の整理整頓を、今度は起きているあいだにはじめるんです......つまり幻覚が見えることになります。
天才の話題の中で、海馬とは関係ないが気になるフレーズを発見した。
p239
池谷 作曲という考え方が出て、創造性が語られ出すのは、ここ二百年以内の話ですし。
ダビンチの工房で、分業しながら製作された作品には、個性やオリジナリティといった近代の考え方は通用しなかっただろう、などといった絵画史上での話はあれこれ見たが、音楽の分野でも当然そうだろうな。
p20写真「ホムンクルス」面白し。
1950年、カナダの脳神経外科医ペンフィールドは電気刺激実験で、大脳皮質のどこで、身体のどこをつかさどっているのかを明らかにした、「ホムンクルス」と呼ばれる図を発表した。
引用として(c)The Natural History Museum,London とあったので、探すとすぐに見つかった。
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